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桃太郎の弟子は英雄を目指すようです  作者: 藻塩 綾香
第6章 枯れた花は日を望む
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148話目 レシアの不安

 大きな声が悪魔宮デーモンパレスの中を響き渡る。女性騎士、ベリアル共に声が発された方向へと視線を向ける。そこにいたのは、蒼、千鶴、ヴェルの三人だった。


 蒼の怒った形相に、ベリアルは驚きの形相を浮かべる。


「ベリアルっ!!」

「はっ、はいっ!!」


 蒼がベリアルの元へと大股で歩きながら近づいてくるのに対して、ベリアルはどこか怒られるのではないかと震える子供のような表情をする。そして、案の定怒られるのだった。


「第六階位魔法なんてやりすぎじゃないの? もし死んじゃったらどうするの?」

「い、いえ……ここでは死ぬことはございませんし……」

「そういう問題じゃないでしょっ!! ほんとうに死ななくても、死の恐怖はちゃんとあるんだよ? トラウマになって冒険者続けられなくなったらどうするの!!」


「で、ですが……。実力を測るという点では、やはりこちらも全力を尽くさねばならないと」

「相手は姿から見て剣士だよ!! 第六階位魔法を防ぐ手段があるとは普通考えないでしょ? だったら、前衛としての力を見るためにも、ギラファやレシアに任せるべきだったんじゃないの?」

「お話のところ申し訳ありません。少しよろしいですか?」


 そう言って蒼とベリアルの話に割って入ったのは、先ほどベリアル達と戦っていた女性騎士だった。


「このたび、少なくとも私にも失態がありました……」

「えっ?」 

「私が上級冒険者用の試験に入ったのが間違いでした。私は、伝説級冒険者ほどの実力を有しています。それなのに、それを自己申告せず、上級冒険者と同等の試験を受けたのは失態でした。そのうえ、お三方を挑発するような言葉をかけたのは私です。責めるなら私を責めてください……」


 蒼はベリアルのほうを見ると、ベリアルはどうしていいか分からないとばかりに視線を逸らしてしまう。


 蒼は早とちりでことを進めてしまっていたのだ。


「……ご、ごめんなさい」

「そ、そんなっ!! 決して蒼様が謝ることではございませんっ!! 私がもっと懇切丁寧に事情をお話していれば済んだ話でございますっ!! それに、今回は私共の準備不足でございますっ!! まさか勇者級冒険者以上の者が加入してくることを想定しておりませんでした。このたびの失態は私共にございますっ!! け、決して蒼様に非があるわけではございませんっ!!」


 ベリアルが手をブンブン振りながら弁解するが、完全に蒼が早とちりをしてしまったいるのはこの上無い事実である。


「蒼……ちょっと……良い?」

「レ、レシア?」


 横腹を摩りながら、レシアが蒼の元へと歩いてくる。先ほど女性騎士との戦いで受けた攻撃が痛むのだろう。


「さっき……『死んだらどうするの?』とか……『死の恐怖』とか……言ってた。でも、私からしたら、そんな事も乗り越えられないような人……要らない」

「……」


 レシアの言う通りだ。

 冒険者は常に死と隣り合わせの職業。命の危機に瀕する機会など数多に存在する。だと、いうのに、命をかけて戦えるだけの覚悟が無い人物が、強い人間であるはずが無い。命を張れない人間に、大切なものが守れるはずが無い。背中を預けられるわけが無い。


 蒼は、自分の言葉の汚点に気づく。


「ごめん……今のは俺が悪かった。ちょっと、接待しすぎてた……」


 新しい人間を受け入れるかも知れない試験で、死に対する恐怖というのは理解しているはずだった。それがどれほど恐ろしく、粘っこく付きまとうものなのかも。だからこそ、新しい人に、自分達がそれを与えるのは違うと考えていた。

 しかし、その死の恐怖さえ乗り越えられない人間を受け入れる試験でよかったのか。そう考えると、甘い試験だといわざる終えない。命を預ける人間を審査する試験なのだ。そんな甘ったるい試験でいいはずが無い。


「蒼、慣れない事、しちゃいけない。けど、私も……甘かった。ちょっとムキになってた……。ごめんなさい」

「レ、レシア様まで謝る必要はございませんっ!! このたびの失態は、全部私の運営が至らなかったあまりに起きたことでございますっ!! ですから……ですから……」


 謝罪合戦が始まっている中、パンと小さく手が鳴る。


「おきちゃの前で、何を慌てているのでありんすか。しゃんとしてくんなまし」


 ヴェルレンティーの声で、謝罪合戦を繰り返していた三人は女性騎士の方に視線を向けてしまう。


「申し訳ありんせん。恥ずかしい姿をお見せしんした」

「いや、気にしないでください。こちらにも非があった。謝罪するなら私からもだろう」

「おきちゃにそこまで言わせてしまうと、わっちらの面子が丸つぶれでありんす。謝罪は気持ちだけで十分でありんす」

「そうですか」

「して、この後はどうするのでありんすか?」


 蒼達が硬直していると、千鶴がそんな三人を見かねてか声をかける。


「この方の実力ってどれくらいなの?」

「伝説級冒険者だから、階級だけで言えば俺達の中で一番上、実力も十分すぎるというか過剰……」

「そう。それじゃあ、加入条件は文句無しでオッケーってことね」


 千鶴はそれだけ確認すると、蒼達も視線を巡らす。


「まぁ、実力主義の世界だけど、一応……面接しておきましょう。素性も知れない人間を入れるわけにはいかないわ」

「そ、そうだな……」


 ここに来てしゃんとする千鶴に蒼は頭が上がらない。それに加えて、レシアにも頭が上がらずついつい萎縮してしまう。


「なに縮こまってんのよ。蒼も一緒に面接官やるのよ」

「えぇ!?」

「えぇ!? って蒼? 燃果の羽翼の団長は蒼なんだよ? 蒼がやらなくてどうするの?」


 千鶴が露骨にため息をつくのに対して、蒼はもう今回の失態の連続で、申し訳なさがとてつもなく襲い掛かってきているのを認知していた。


「王よ。しゃんとしてくんなまし。一応、わっちら燃果の羽翼の新たな仲間となる人間の前でありんす」

「そ、そうだな……。ごめん」


 そういうと、蒼は自分の頬をピシッと強く叩く。


「それじゃあ、とりあえずギルド拠点ホームに移動してもらうか。アレクシス? 近くにいる?」

「はっ。すぐお傍に控えております」


 蒼が呼んだ悪魔は、蒼達が特別室へと案内してくれたメイド服を着た悪魔である。バールの直属の部下だが、蒼にも指示できる権限はもちろん持ち合わせている。


「今から面接をしたいから場所のセッティングをしてもらえるかな。場所は……応接間『壱』が空いていたはずだから、応接間を良い感じにお願い」

「畏まりました。五分お時間をいただければ全て完璧に仕上げてまいります」


「あっ……あと待たせている間にもくつろげるように一部屋準備しておいて。お菓子とかも良い感じに頼めるかな?」


「畏まりました。すぐさま準備いたします。お部屋のほうはどう致しますか?」

「応接間『弐』でお願いできる?」

「うん。ありがとう。それじゃあ、お願いね」

「ご期待に添えられるよう全力を尽くします」


 そういうとアレクシスは転移門を開けると、ギルド拠点へと移る。


「ずいぶん下に教育が行き届いているのですね」


 女性騎士が関心しながら呟くのに対して、蒼はどこか照れを含みながら答える。


「いや、俺がしたわけじゃないんだよ。きっと俺がスキル保有者っていうのが理由だよ。彼女だって、上級冒険者と同等に戦えるくらい強いんだから……」

「いえ、きっとそれだけでは無いと思いますよ」

「そ、そうかな……」


 蒼が頬を搔きながら苦笑いを浮かべていると、アレクシスとは違う悪魔が現れる。


「お客様、待合室の準備が出来ました。こちらへどうぞ」

「あぁ、分かった」


 女性騎士は悪魔メイドの後ろをついていく形で、転移門を潜る。


「それじゃあ、俺達も準備するか……」

「で、面接官は誰がやる? 私と蒼は確定として……あとは……」

「龍娘もギラファも此度の戦いで疲れている事でありんしょう。わっちが引き受けんす」

「それじゃあ、私と蒼とヴェルでいいね」

「あぁ、問題ないよ」


 千鶴はそれぞれの返事が返ってくるのを確認する。


「それじゃあ、恐らく加入確定の新入りいびりでもしてやりますかっ!!」

「千鶴……それはただのいじめだから……変な事は聞くなよ」

「モラルに準じた新人いびりよ」

「それはダメなんじゃ……」


 蒼は千鶴の言葉に、苦笑いを浮かべながら応接間『壱』へと向かうのだった。


 蒼と千鶴、ヴェルが転移門を潜った後、ベリアルが続いて転移門を潜ろうとしたとき、ふと足が止まった。その挙動を見て、バールもサロスも足を止めた。


「レシア様、どうかいたしましたか?」

「……。ベリアル、あの人、どう思う?」

「あの女性騎士のことですか?」


 レシアは女性騎士が消えていった転移門があった場所に視線を向けている。


「そうですね。燃果の羽翼で一番の身体能力のギラファ様と互角かそれ以上に渡り合うだけの戦闘能力、私の魔法を防御する……つまり第六階位魔法を習得しているという事を考えると、かなりの強者ではあると思います」

「うん。それは……分かってる。もっと、別……」

「別、でございますか?」


「人間性……みたいな……」

「そうですね。悪い人間では無いとは思います。先ほどの戦いに真摯に挑む姿勢が見受けられました。私達からしたら煽りでしかありませんが、三対一を申し出たのも実力を見せつけ有能と示すためと思えば、納得がいきます。それに、私が【破邪の聖崩(アトロシオスルイン)】を放ったとき、彼女の表情は少なくとも余裕ではありませんでした。勝利に固執する人間の顔でした」


「うん。すごい、真面目だった」

「……レシア様、何をそう危惧していらっしゃるのですか?」


 バールがレシアに問うと、レシアは大嫌いなピーマンを食べたときのような渋い表情をしながら答えた。


「女の勘が……敵だって言ってる……」

「は、はぁ……」


 ベリアルもバールもサロスでさえ、そのどことなくレシアの返答に緩い返事しか出なかった。

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