12話目 合同演習
身支度を整えてから、西のメインストリートを抜けていき、ユリウス達との集合場所へと向かう。
「遅れてすいません」
蒼が申し訳無さそうに謝るが四人は何気なく迎えてくれる。
「いや、俺達もさっき到着したばかりだから。ちょっと、気が先走っちゃってね」
「そうそう。ペトルなんて、何が不安なのか荷物を四度も確認してな」
「アールには関係ありません!!」
ペトルが不満げな顔を浮かべながら、これからのチームでの冒険に心を浮かせていると、奥から一人の人物が歩いてきた。
「おっ、君が噂の桃太郎の弟子かい?」
そういう男性は、身長は蒼より頭一つ分大きく、ギラギラと光るような目に、かき上げられた髪。がっちりとした体躯には初心者の蒼の目からでも分かるような魔物の鱗をあしらって作られた精巧な鎧。そして、背中に担がれている自身の身長と同じほどはあろうかという巨剣。
「はじめまして、ユリウス達の指導を任されている。バルミノだ。一応、これでも上級冒険者だったりする」
そういうとバルミノは自慢げな表情を浮かべる。
「実はバルミノさん、お酒と女の人にめっぽう弱くて。この前は、酒場で酔い潰れたのを必死に担いで帰ったんですから」
「バルミノ殿は体躯がいいから、いつもわしとユリエルで担いで帰るのだ」
ユリウスのケブハルトの言葉に、バルミノも「そんなこともあったな」と言い豪快に笑ってみせる。なんともさっぱりとした人物だ。
「こちらこそはじめまして。桃水蒼と言います」
蒼はそう挨拶を済ませた後ペコリとお辞儀をする。目上の方にはしっかりとした態度で接する。千鶴からの教えだったりする。
「マナーもなっているし、誠意も見られる。やんちゃなゴロツキとは違うな」
バルミノはそういうと腕を組み「アールもこうだったらなぁ」と呟いてみせる。
「いや先輩、俺だって紳士としてのマナーは一流ですよ。女の子のエスコートなら負ける自信ありませんから」
「お前にお持ち帰りした女を迎え入れるだけのスペースがあるのか? ギルドに連れてくるつもりか?」
バルミノがそういうと、ぐうの音も出ないようでアールがむぅとした表情でバルミノを見つめる。
それを見た三人は大きく笑いを弾けさせた。
バルミノは、四人にとっての兄のような人物なのだろう。四人の仲の良さげな雰囲気をたばねるバルミノを見ているとそう感じさせられる。
「それじゃあ、受付はすませているからそろそろ行こうか」
「今日から二日間、よろしくお願いします」
「硬くなることはないさ。他ギルドとはいえ一介の冒険者なら全員仲間だからな」
バルミノは大きく笑って見せた。
そうして、蒼達六人は関門を潜り今回の目的であるドゥーゴ樹林へと向かうのだった。
◆◇◇ ◇◇◆
「はぁッ!!」
蒼はスチールソードを上段から下段へかけて一閃させる。自分の身長はあろうかというほどのゴブリンの肩から腰にかけて赤い血しぶきとともに傷口が線を描く。
蒼が攻撃をした後に、すぐさま背後からゲブハルトが蒼と位置を変わりゴブリンの頭部めがけてメイスを振り下ろす。
ゴブリンはゲブハルトの攻撃をもろにくらい、頭部が拉げたかと思うとそのまま粒子となって消える。
更に蒼は視線を移動し、アールのほうへと視線を向ける。
アールは一体のゴブリンと交戦していた。ゴブリンが不恰好に振るう錆付いた剣をしっかりと見極め、一撃一撃避けていく。そして、ゴブリンの剣が地面に向けて振り下ろされ、土に剣先が埋まる。
それを見たアールは、剣を持つ右手へナイフの刃を滑り込ませるようにして切断。ゴブリンの腕がドサリという音を立て地面に落ちる。
「アール、代わるぞ」
「任せたぞ蒼」
蒼は、アールと位置を入れ替わる形でゴブリンの首元へ向けてスチールソードの刀身を向け、ゴブリンに一撃を食らわせてやる。
そのままゴブリンは絶命して、粒子へと変わる。
「すまねぇな蒼」
「こっちこそ、少し反応が遅れた」
蒼は先ほどのゴブリンから落ちた魔石を手に取り、アールと先ほどの反省点を述べた。
現在蒼が使っている武器は、愛刀の村雨ではなく、バルミノがわざわざ用意してくれたスチールソードを使っている。
バルミノ曰く、村雨の性能は英雄が使う武器にも相当するほどであるらしく、ゴブリンであれば豆腐当然に切れてしまい、自身の練習としての役目を果たさなくなるらしいのだ。
それで、バルミノが武具屋で購入してきてくれたスチールソードを現在使っている。だが、村雨を振るってきて六年にもなるので、スチールソードを振るう度に村雨の柄に慣れてしまった手や腕、頭が違和感を訴えてきてどこか気持ちが悪かったりする。
だが、上級冒険者からの教えを請えるのだと考えると、辛抱するしかない。現在村雨は、バルミノに預かってもらっている。
「蒼、剣術にかなり長けているようだな。流石だ」
「ありがとうございます。でも、まだまだなんです」
蒼は英雄、桃太郎の背中を見てきた。その剣筋は今の蒼なんかじゃ到底叶わないほどに、洗礼されており、一太刀一太刀が美しく素早く攻撃的であった。あの剣を目にしてしまうと、自分の剣の拙さというのが目に見えてわかるのだ。
「向上心もある。蒼は良い冒険者になるな」
バルミノが腕を組みうなずきながら答える。
「しかし、パーティーで戦うのは苦手か?」
蒼は、ユリウス達のパーティーに遊撃として立ち回っているが、いまいちピンと来ない。今まで一人で立ち回ってきたというのもあるが、蒼が教わった甲斐流は主に一対一や複数を基本とした剣術であるため、あまり集団での戦闘というのが慣れないししっくり来ない。
「……はい。どうにも、勝手が分からなくて」
初めて買った道具に触れているような感覚に悩まされてしまう。
「お前の剣術は流石と褒める箇所が多く見受けられたが、お前はいつまでも一人で戦っていくわけではないだろう? 多くの人と関わり、多くの戦術を学んでいくといいだろう」
確かに蒼はアレフレドに来てから関わりをもった冒険者ギルドというのは少ない。それに、ここまで親身になってくれるギルドというのはいなかった気がする。
「パーティーで戦うときの大切なものは何か分かるかペトル?」
「えっ、えっと……信頼です」
信頼。
「その通りだ。パーティーにおいて一番大切なのはコンビネーションよりも信頼だ。大体これさえあればなんとかなるものだ。まぁ、それでもうまくいかないのは経験不足としか言えないかな?」
「まぁ、蒼も俺達もまだ新入り中の新入りだ。どんどん経験を積んでいけばいいって事だ」
「そうそう。俺達に大切なのは経験とハートだ」
「信頼できるとは、良いことであるしな」
「そういうことだから、どんどん俺に頼っちゃってくれよ、蒼」
「あぁ、頼むよアール」
どこか人懐っこく、誰に対してもオープンに振舞ってくるアールとは取っ掛かりやすく話しやすい。
「俺達は一時的なパーティーだが、冒険者って点では大きなパーティーだ。俺にも頼ってくれよ」
ユリウスは、このパーティーのリーダーとしてしっかり者という印象がとても強い。みんなのことをしっかりと見ていて、仲介にも入れば、自身が主体となって動くこともある。
「僕だってチームの一員なんです。頼ってください。蒼さん」
ペトルは、弱腰な物言いではあるがしっかりと軸を持っており、物事に慎重に取り組む姿勢は、蒼も見習わなければいけない点だ。
「チームであるからな」
ケブハルトは、パーティーで一番温和な性格と言っていいだろう。いつだって、チームを受け止めるような大きい物腰。そんな姿勢が安心感を与えてくれる。
師匠もチームを組んでいた。
師匠に三人の仲間。それぞれが、かなりデコボコで歪で絶対にどこか突起物が出ているようなでこぼこなメンバーだった。
だけれど、パーティーとしてみたときそれは一つの球体として形成しあっていた。それぞれが補完しあって、互いのちぐはぐな部分を補って、ひとつの球体として成しえていた。
スープを掬う際、猿の兄者が多くスープを持っていったとして、犬のポチ姉ぇがよく喧嘩をふっかけていた。だが、実際は雉姉ぇだったりして、もうひと悶着あったりした。
薪割りをポチ姉ぇがサボったと蒼が言いに言ったら、実は師匠の当番で一週間連続でサボっていたなんてこともあった。
喧嘩や罵り合いも多くあって、皿なんて何枚割ったか分からないくらいハチャメチャな人たちだったが、戦いになるとその目つきが変わりパーティーとしての完成度の高さを見せた。
あの光景はほんとうに目に焼きついている。
そして、すばらしいパーティーだったとおこがましいが蒼が自負していた。ユリウス達のパーティーの完成度も高いが、師匠のパーティーはそれを上回っている。圧倒的なほどに。
高木が生い茂る森の中、蒼はそんなことを考えながらバルミノ達の最後尾を歩きながら小さく呟いた。
ふと思った感想だったが、自分の中の小さな憧れなのかも知れない。
「俺も、あんなパーティーが組めるのかな?」




