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異文化エッセイ

和魂タイ才 タイ語の語彙とタイ語的思考

作者: 中原恵一

学習者なので間違いがあったら指摘してください。

 久しぶりにタイ語関連のエッセイでも書こうと思う。

 今日はタイ語の造語法についてというトピックなので、語学好きの人は楽しんでいただけるかと思う。

 先に断っておくと、これは目下タイ語勉強中である筆者自体の学習ノートでもあるので間違いがあったら報告してください。


 さてタイ語の単語の作り方というのは、日本語と違って何か一つのカテゴリーのものにはそれをあらわす類別詞なり接頭辞なりがつくことが多い。たとえば「オウム」「フクロウ」「タカ」「クジャク」といったとき日本語では見た目(漢字で書かない限り)全然違うが、タイ語では全部นก nok4(鳥)が前につく。要は全部「○○鳥」になるわけである。

 ちなみにインコとオウムは区別がなく、両方ともนกแก้ว nok4gɛɛw3(直訳で鳥+ガラス)になる。

 魚も同じく、なんとイカやタコも魚に分類される。イカ ปลาหมึก plaa1mɯk2(墨+魚)、タコ หมึกสาย mɯk2saai5 ないし ปลาหมึกยักษ์ plaa1mɯk2yak4(魚+墨+鬼)になったりする。


 なんて単純な言語なんだ、と思うかもしれないが、意外とウルサイ部分もある。

 たとえば「鼻」。

 日本語では人間の顔の鼻と象の鼻は同じ「鼻――ハナ」という言葉で表す。しかしタイ語ではจมูก ca2muuk3(人間の鼻)とงวง nguang1(象の鼻)を違う言葉を使って表現する。これは英語でも同じで、日本人は意外と知らないが人間の鼻がnoseであるのに対し、象の鼻はtrunkである。


 今まで紹介してきた単語は、大体固有語か、いくつかの単語の組み合わせで表現するものだった。

 しかしタイ語の語彙はこれにとどまらず、覚えるのが非常にやっかいなものがある。

 パーリ語、サンスクリット由来のものだ。


 タイ語の語彙のかなりの割合をパーリ語由来の単語が占めている背景には、やはりタイが歴史的にインド、そして仏教の影響を受けてきたことがあるだろう。

 日本語という言語は漢字の恩恵で高等で複雑な概念をあらわすことを可能とした。

 それはタイ語も同じで、タイ語も高等な概念をあらわすのにパーリ語を使って造語しているわけである。タイ語の中には相当数、タイ語的発音になまったパーリ語が存在している。


 ここまでは納得できるのだが、いかんせんパーリ語由来の単語は綴りと発音の一致が絶望的で、毎度毎度単語ごとに発音を覚えなければならない。パーリ語だった時のもとの綴りを残しているせいで、タイ語の綴りは黙字や不規則な読み方がオンパレードだ。

 たとえばชาติ chaat3(国)だが、後ろはどう考えても規則通りにいけばtiである。しかしそうは読まない。เศรษฐกิจ seet2tha2kit2 も最初途中に途中ロー・ルア(ร、Rのこと)が挟まっているものだからsreetとかになるのかと思いきやタイ語にはそんな音節は存在しないので省かれてseet2になる。もうこの手のものは字を覚えるときに発音も一緒に覚えるしかない。

 さらにガーラン(黙音記号)という面倒くさいものがある。

 พิพิธภัณฑ์とかวันจันทร์ とか書かれたときに一番後ろの字の上にのっかっている記号がある。これがガーランで、ついている字が黙字(読まない字)であるということを指している。

 しかしそもそもวันจันทร์ wan1can1(月曜日)なんてガーランの乗ってるロー・ルアの前のトー・タハーンも読んでないじゃないかふざけるなと言いたくなるが、よく綴りをみるとcanthrでなんとなく「チャンドラ(ヒンディー語などで月の意味)」と似ているではないか、と思う。実際タイ語で月はจันทร์というので間違いないだろう。水曜日はวันพุธ wan1phut4 だが、これも後ろは「ブッダ」に通じているのだとか。


 で、このガーランがその本領を発揮するのはなんと英語等の外来語においてである。

 そう――ガーランがつくのはパーリ語由来のものだけではない。タイ語で林檎はแอปเปิ้ล ɛp4pən3ないしแอปเปิล ɛp4pən1だが、まず発音を見るとまず英語のappleのaという母音がɛに置き換わり、さらに後ろのLがNに発音が変わっているのが分かるだろう。

 しかし綴りではどうか。綴り字はエー+オー・アーン(อ、母音をあらわす字)+ポー・プラー(ป、pをあらわす)+エー+ポー・プラー+イ+マイ・トー+ロー・リン(ล、lをあらわす)できちんともとの発音であるLを残しているのだ。確かに発音だけ聞くとエップンのようになって元とかなり違うが、綴りでは英語の綴りを生かして書かれているのだ。

 このような例はほかにもある。สตอรเบอร์รี่(ストロベリー、苺)ではstrawberryの一番目のrを黙字とするためにロー・ルアの上に、คอมพิวเตอร์(パソコン)でもcomputerの最後のrを消すためにロー・ルアの上にガーランが乗っている。

 

 このようにタイ語の綴り字の規則は、日本語の漢字仮名交じり文を凌駕するほど難しい。


 そういえば最近คาบสมุทร khaap3sa2mut2(半島)という単語を覚えたのだが、これの後ろについていうる言葉はสมุทร(海、サンスクリット由来)の単語で発音だけだとสมุด sa2mut2(帳面、本)と同じである。このสมุด はห้องสมุด(図書館)につく。

 最初คาบสมุทรを見た時にどうして周期+本で半島の意味になるのだろうとすごく悩んでいたのだが、よく見たら後ろは海สมุทรだった。seeとseaみたいなもので、全く違う単語なのだ。

 いやはや、タイ文字の綴り恐るべし。


 そういえば隣国のラオス語だと言文一致を目指しているらしく、例の月曜日もワン・チャンだったらwancanまでしか書かないのだそうだ。確かにこういう方が楽だが、こうするとサンスクリットでの語源が分かりにくくなるという欠点があるんだとか。まさに一長一短。

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