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Sweet pea  作者: 白羽湊
3/3

世界と力

「落ち着いた?」

ミクリが私の顔色を伺うようにして覗き込んでくる。泣いて、泣いて、こんなに人前で泣いたことなんてあっただろうか。きっとない。

「はい。もう本当に大丈夫です。」

千李の答えにそっか、とミクリが言う。

「…何だかとても不思議な気持ちです。」

「不思議な気持ちとは?」

レイが尋ねる。

「私にもよく分からない、始めての気持ちなんですが、泣いたあとなのに凄くすっきりした気がします。」

「すっきりってそんなの当たり前なんじゃねえの?」

アルーシャはさも当然だというが、

「今までこんなに泣くなんて、しかも人前で泣くなんてなかったので。泣くことがあってもこんな感覚にはなりませんでした。」

「それだけの事をしたってことだろ。」

「いえ、…それはもういいですから。それに、泣いたらすっきりするのは当たり前ですか?」

「千李ちゃんは初めてだったんだよね。でも思いっきり泣いた後は、すっきりするものだよ。ね、レイレイ?」

「ええ、そうですね。私にもあまり経験はありませんが、そうだと思います。」

レイが千李に微笑みながら続ける。

「千李さんが今まで経験がないと仰るのはきっと、思い切り泣いたことが無かったからではありませんか?」

「そうですね。確かにそうかもしれません。」

そう言う千李の表情は柔らかい中に、どこか遠くを見るように悲しそうなものも垣間見えるようだった。



「あの…、」

口を開いたのは千李だ。三人は千李の方へ視線をやる。

「えっと、私はここがどこなのかも分かりません。だから、その…私はこれからどうしたら良いのでしょうか?」

「そうだよね。」

「そうだな。」

「そうですね。」

千李の問いかけに三人がそれぞれに相槌を打つ。三人がそれぞれに考え出す。千李はそれを静かに見守った。

はじめに口を開いたのはミクリ。目をきらきら輝かせ、いい考えが浮かんだと表情だけで訴えてくる。それが可愛くて千李はくすりと笑った。千李をはじめ他の二人もミクリに視線をやる。

「この国の子じゃないって事は分かったわけだし、千李ちゃんの事は僕らでどうにかするべきでしょ?」

「確かに。それが責任というものでしょう。」

レイもアルーシャも頷いた。

「だから、千李ちゃんを僕らの客人、いや、それじゃちょっと薄いから、隣国からのお姫様っていうのはどうかな?」

ミクリからの思いがけない提案に、千李は思考が追いつかない。

「ま、ま、待ってください。姫にするって私をですか?」

「そうだよ。悪い話じゃないと思うんだけど。そうすれば、千李ちゃんをこの城においておく理由にもなる。」

そう言ってミクリが他の二人へ視線を投げかけ、意見を求める。

「いいんじゃねえか。」

「そうですね。千李さんはご自身でも言われていたように、この国の事は全くご存知ありません。その方が彼女へ不自由させずに済むかもしれませんね。」

二人はミクリの考えに賛成なようだ。

「だよね。そういうことでいいでしょ。」

ミクリも満更でもないのか、すっかりその気になっているようだ。

「あっ、あの…私はそんな特別とかいいですから。この国のことを知らないのは本当ですけど。」

「何だよ、お前これじゃ不満か?」

「いえ、不満なんてありませんけど。」

「だったらいいじゃない。」

「そうすけど…」

ミクリもアルーシャも千李がどうして承諾しないのか分からないらしく、お互いの顔を見あっている。

「何か不満があるなら言えよ。」

「いえ、不満ではないですけど…なんていうか…その……私はそういう扱いには慣れてないので…」

「平気だよ。僕らが側にいられるんだから、君の安全も保証できるし。」

「でも……。」

それでもうん、と言わない千李に焦れたのかアルーシャが口を挟む。

「ああああ、面倒臭え。千李、お前にとってはこれが一番なんだよ。特に反対する理由も無いならこれで決定する。いいな?」

そう言われ千李も漸く頷いた。

「決定だね。一 千李姫?」

ミクリが楽しそうに笑った。

「姫なんて付けられると恥ずかしいです…。」

千李が少しだけ頬を赤く染めて言った。

「直ぐに慣れるよ。」

千李は、そんなに簡単に慣れてしまって良いのだろうかと心の中で呟くのだった。




「さて 一一一」

レイが話を切り出した。

「千李さんのこれからについて方向が少し決まりましたが、それに伴いまずこの世界についてお話ししましょうか。」

その言葉に千李も他の二人も少し真剣な顔付きに変わる。

「そうだな。何も知らないままじゃ色々とまずいからな。」

「そうだね。僕も話すべきだと思うな。」

二人の了承の言葉を聞いてレイがまた口を開いた。千李はそれを黙って聞いた。

「この世界は先程から聞かれている通り『デルフィニウム』と呼ばれる世界です。そしてこの場所はアルテミス宮殿と言い、普通であれば、簡単に入ることのできない場所なのです。この宮殿の中に貴女が倒れていた聖堂もあります。」

「初めは単純に驚いたよね。」

ミクリが笑いながら言うと、

「そうだよなあ、今までここにそうそう侵入許したことなんてなかったしな。そもそもこの国の奴なら侵入した時点で気が付く。」

アルーシャが机に頬杖をつきながら言う。レイはそれに頷いて続けた。

「アルーシャが言うようにの場所へ侵入を許したことはありませんでした。」

レイが席から立ち上がり、四人の囲むテーブルの上に右手をかざした。すると、レイの翳した右手の甲に印が現れ浮かび上がる。その印は円形を複雑化したような模様で、魔法陣のようだなと千李は思った。その印が光出すと同時に、それに呼応するようにテーブルの中心に同じような印が現れた。千李はただただ驚き口をぽかんと開けたまま成り行きを見ていた。

「これは?」

千李が不思議そうにテーブルの上に現れた複雑な模様を見つめながら尋ねる。周りの三人は酷く驚いているようで、顔を見合わせていた。

「千李、お前印が見えるのか?」

アルーシャの声色はやはり同様しているらしい。

「え?だってこんなはっきりと魔法みたいなもの見せられたら、見たくなくたって見えますけど…。」

千李は逆に驚かれる意味が分からないと言いたげだ。皆は一体何に驚いているのだろうかと、千李も三人を交互に見た。

「なーんか、千李ちゃんにはずっと驚かされっぱなしだね。でもまさか、ここまでとは。」

ミクリは驚いた表情を見せながらも、興味深そうに千李を眺めた。

「全くですね。私も驚きです。千李さんに説明しようと思い、これを出しましたが、『貴女には見えないでしょうがここには…』と言うつもりでした。まさか見えていたとは。」

あまり表情の変わらないレイさえも表情から驚愕が見て取れた。そんなに驚かれることなのだろうか。

「あの…、その、この印が見えるのがそんなに凄いことなんですか?誰にでも見えるものなんじゃ…。」

「そんなわけねえだろ。これは『聖女の眼』って言うんだよ。俺たちみたく、選ばれた者にしか使えねえんだ。それどころか、普通の奴らには見ることも出来ねえんだよ。」

「『聖女の眼』って…一体。」

「それを知るには段階踏まなくちゃ。」

ミクリが変わらず茶目っ気のある明るい声で言う。

「この世界にはね、覆すことの出来ない程の大きな力、この世界を縛る力が存在するんだよ。」

「世界を縛る力…?」

「そう、君が目が覚めた時に僕が言った事覚えてる?『簡単にこの世界の人間か調べる方法がある』って言ったよね。嫌な事まで思い出させちゃうかもしれないけど。この世界の人間なら、体の何処かに『烙印』を持ってる。」

「その烙印を私達は、『平等と裁きの印』と呼んでいます。」

レイが続けた。

「それならさっきミクリさんから少しですけど聞きました。その烙印が私には無かったから、私がこの世界の人間じゃないって分かったって。」

「そうです。この世界の人間は必ず持っているはずのもの、生まれ堕ちた時より身体の何処かへ刻まれます。そしてこの世界にはもう一つ『coler eyes』と言ってある種の特別な力を持つ者が存在します。名前の通り、色の付いた瞳を持つ者のことです。この世界では瞳の色こそが力なのです。」

レイが一度言葉を切った。それにアルーシャが続ける。

「そして、その瞳coler eyes はこうも呼ばれる。『統べる者の眼』ってな。瞳を持つものはその力を使って、国を統べる、つまりは治める事ができる。烙印はその瞳の力が及ぶ者であることを示す、言わば目印だってことだな。」

「分かったかな?この世界を縛る力。瞳、そして烙印。これがこの世界を縛り、作っているものだよ。」

ミクリはそういうと、席から立ち上がり千李の方へとやって来る。千李の目の前にくると、目線を合わせるように姿勢を低くする。

「ーーーーあっ。」

目の前にあるミクリの顔を見て千李が声を上げると、ミクリはくすりと笑った。

「気が付いたかな?そう、僕らのことだよ。『coler eyes 』瞳の力を持つ者っていうのはね。」

そう言うミクリの瞳は確かにアクアマリンの綺麗な眼をしている。まるで氷のように透き通ってしまいそうな程綺麗な眼だった。

「これが…coler eyes…。」

「瞳を持つのは僕だけじゃないよ。」

ミクリが千李から視線を外したので、千李も辿るようにして追った。

「レイ、さん?」

御厨の見つめる先、そこにいるのはレイだ。千李が見つめると、レイもふっと微笑み見つめ返してきた。ー シルバーグレイの coler eyes レイの瞳は確かにそれだった。普通とは違う、特別なんだと何故か納得した。

「…ってことは、ーー」

千李はこの場にいるもう一人の人物を見た。

「ーーー …あれ?」

「ーー何だよ。」

アルーシャが不機嫌そうに言う。

「いえ、あ、あの…アルーシャさんは瞳を持ってないんですね。」

「ああ、まあな。」

「あれ?でもここには力を持つ特別な者しか入れないんじゃ無いんですか?」

「そのことならー」

「いず分かりますよ。」

ミクリとレイが意味深げな笑みを交わしながら言う。

「千李ちゃんが言うように力を持たないものは烙印を持っているし、ここに僕らといることもないだろうね。」

彼は所謂『特別』だよ。ミクリはそう付け加えた。

「現時点では瞳を持っていませんが、アルーシャは力を持っています。それに烙印も現れてはいない。前例のないことですから『特別』です。」

「そうなんですか。」

アルーシャをじっと眺める。確かに瞳は吸い込まれそうな程深刻の闇。黒く、特別な色はしていない。

「俺の事はもういいだろ。それより他にーーー」

アルーシャの言葉は最後までは言われなかった。それに変わり千李の目には四人の囲むテーブルの上に現れた『聖女の眼』と呼ばれた印が映った。今まではただ白く弱い光の線だったものがシューっという音と共に赤く光り出したのだ。三人の目付きが変わる。千李は変化の意味についていけずにいたが、何か起こったのだということは分かった。

「やれやれ、相変わらずだね。」

「全くだ。」

急な印の変化にもたいして驚かないのか、ミクリもアルーシャも平然としている。

「まあ、そう言わないで。行きますよ。」レイが二人に声をかける。分かってる。とアルーシャが席から立ち上がりミクリも続けて席を立つ。

「あっ、あの。何かあったんですか?」

「まあな、いつものことだ。」

「いつものこと…。あっ、あの私はどうしたら?」

三人が部屋から出て行こうとするのを、慌てて追おうとする。

「いつものことだとは言っても、千李ちゃんがついて来るべき事じゃないよ。君はここで待っているといい、お姫様?」

ミクリが笑いながら千李を制すると、千李に向かってニコリと微笑んでドアの向こうへ消えた。

三人の反応から事わそれ程大きなものではないのだとわかるが、それでも彼らが出て行く程のことなのだから、何でもない訳ではない気がしていた。だって彼らは力を持つ特別な人達なのだから。この世界は千李にのいた世界とは違う。まるで魔法のような、あっちの世界ではなかった事が起こる世界なのだ。八角形のテーブルの上の印はまだ赤く光っているのが目に入ってくるー。そんな世界の『力』とは一体なんだろうか。瞳という力と、烙印を持つ人々の間には一体何があるのだろう。千李は三人が出て行った扉の方を見つめた。先ほどまでの説明だけでは分からないことが多くある。最も分からないことは、自分が何故この世界にたどり着いてしまったのかということ。知らないこと、分からない事がある。自分で探し出さなくてはいけない気がした。

千李の足は自然と動き、重々しく閉じられた扉に手をかけたーーー。

かなり時間が空いてしまいましたが、

ここまでで第三話完成ということにしたいと思いますo(^▽^)o

やっと世界のことがわかってきたかな?…なんてwww

漸くファンタジックな感じも出てきました( ̄^ ̄)ゞ

これからもマイペースに頑張ります( ´ ▽ ` )ノ

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