終わりと始まり
この作品は一部性的模写、表現を含みます。
苦手な方は閲覧を避けて下さい。
黒い雲が空を覆い、辺りは暗闇に包まれる。いつからか見えていた青空も見えなくなって、ざわわと風に木々が鳴る。
何時からだろう、こんなに苦しくなったのは。何時からだろう、世界に影が差したのは。
考えるだけで苦しい。生きているだけで、苦痛とすら思える。
また風が吹いた…。このままどこかへ連れ去ってくれたらどんなに良いだろう。ふと、そんなことを考えた。
「もうすぐ終わるね。」
傍に誰が居るわけでもない。私だけ。
ここは白いモノばかりが集まった所 ー 病院。そして私はその病院の一番高い所にいる。今更躊躇いとか、恐怖なんてものは起こらなかった。心にあるものは何だろう…。期待?絶望? ー 何もない。無心というのだろうか、そんな言葉が当てはまりそうだ。ただ真っ白な頭で何を思うことなく、ゆっくりと柵をこえる。六階建ての建物ではあるけれど、下を見ればもう少し高そうに思えた。
何気無く地平線を眺めてみた。病院自体は小高い山の上にあるから、町のビルが犇めいているのが見える。厚い雲のせいで影をおとしたそこは、普段にない静けささえ思わせ、私の孤独感をくすぐった。
雲の僅かな切れ間にうっすらと光が差した。それを一瞬見届けて、私は空気の中へ落ちていく。
自分の命に危険が迫った時、まるでスローモーションのように時がゆっくりと流れるなんていう話を聞いたことがあるけれど、当にそれだった。
地面がなかなか近付かない。体に触れる空気に熱を奪われているはずなのに、周りの空気は温かいとさえ感じた。重力に逆らって落ちているのか、それとも病院の高さがとても高くなったのか。そんなことを頭のなかで考えた。
見るべきものももう無い。開けていた目を瞑る。もう二度と開くことも無いだろう。それにこんな世界なんて見ていたって仕方がない。
「もしもこの目をもう一度開くことがあるのなら、その時はどうか私にもう一度心を下さい。」
そうして私の意識はかすれていき、私は終わる。
ここは…。
私は地へと還ることができたのだろうか。意識はまだ朦朧としている。
「――ぃ。」
なにかが聞こえた気がした。ゆっくりと意識を呼び戻す。
「おい。―おい。大丈夫か?」
今度ははっきりと聞こえる。誰かに呼ばれている。重たい瞼を開けると同時に、眩しい程の光が目に入ってくる。その眩しさに顔をしかめた。瞬きを繰り返していると、段々と辺りのものが見えてきた。
「やっと目覚めたな。」
視界に映る男性がまた口を開く。この人は誰だろう?ただボーッと見つめていると再びその人が口を開く。
「…お前大丈夫なのか?」
相手の眉間に少しシワがよる。すっと長く伸びた睫毛、透き通るように白い肌、髪はキャメル色をしている。そして何より引き込まれそうな黒い瞳に一瞬目を奪われる。でも、この人は日本人ではないのだろう。どうしてだか分からないがそう思えた。
「それで…お前は誰だ?」
彼がまた自分に尋ねてくる。「私は…」そう答えようとして、漸く気付いた。自分は今何処かに寝かされているという事に加えて、両手を拘束されている。手に痛みを感じる程ではないが、動かすことは出来なかった。その瞬間私の中に恐怖が芽生えたのが分かった。一気に体に力が入る。
「もう一度聞く、お前は誰だ。」
彼の私を見る目が冷たくなったのを感じ、口を開いた 。
「わ、私は 錦木 千李と言います。」
やっとの思いで、最低限のことを口にする。
「錦木 千李か。」
「はい。」
彼の聞き返しに頷きながら答える。
「名は分かった。ではお前は何者だ。」
「えっ…?」
聞き方を変えようが千李には先程の質問と同じように思われ、思わず疑問を抱く。何者だと聞かれれば名前を答えるのではないのか?それとも「人間です。」とでも答えればいいのだろうか?でも、それではあまりにも相手を舐めている。仮に相手が人でないなら話は別だが、彼は外見からしても人間だ。千李が考え込み、黙ってしまうとまた彼が口を開く。
「…では、質問を変えよう。お前は何故、あのような場所にいたのだ?」
「あのような場所とは…何の事ですか?」
千李にはさっぱり意味のわからない事だ。彼は一層眼光がより鋭くなり、千李は心まで射抜いてしまうのではないかと思われ、咄嗟に目を逸らす。
「はぐらかすのか。…いい度胸だな。」
彼が千李の胸ぐらを掴もうと手を延ばしたその時、
「聖堂。君が倒れていたのは、聖堂だよ。」
別の声が聞こえたと共に、足音がこちらへ向かって来る。千李が声のした方へ目を向けると、男性が二人見えた。近付いて来る二人は髪色がクリーム色、シルバーグレイと、あまり見たことのない色だ。やはりこの二人も日本人にはみえない。先程の声の主は恐らく、クリーム色の髪をした人の方だろう。
「聖堂…?」
「そうだよ。そうだよね、アルーシャ?」
「おい、お前勝手に俺の名前を呼ぶな。だいたい、こんな奴のいるところで名を読んだりして…情報を与えてどうする。」
新たにやってきた二人の中の一人は「あはは、そうだね。ごめん、ごめん。」と笑いながら言った。
「この方が?」
もう片方の人が千李を見やりながら、口を開く。
「ああ、そうだ。だから今、尋問してたとこだよ。」
アルーシャと呼ばれた彼は面倒だと言いたげな口調だ。
三人で私を見下ろす。怖い…。そう思った。軽い口調であった彼も、千李を見下ろす眼差しはとても冷たかった。…いや、冷たく映るのも当然なのだろうか。彼の瞳はアクアブルーの透き通るような薄く綺麗なものだった。その表情から笑みが消えた途端顔立ちが整っているせいもあるのか、感情の消えた冷たいものに見えたのだ。私はどうして…そう考えてはっとする。自分は死んだはずだ、と。躊躇いながらも口を開いた。
「あの…、ここは天界ではないのですか?…私は、死んだはずです。」
千李の言葉に三人が顔を見合わせる。
「あははは、君何言ってるの?」
「何って…」
「ここは、デルフィニウム。そしてアルテミス宮殿。あのアルテミス外門の中さ。」
さらさらと当然だろとでも言うように、知らない単語が並ぶ。千李の頭の中はますます混乱していくだけだった。
「本当に分かりません。私がいたのは日本で、病院の屋上から飛び降りて死んだはず。ただそれだけです。ここが何処なのかは知りませんが、天界ではないというならここは私の来たかった場所ではありません。…それにデルフィニウムですか?…そんな国があるなんて聞いたことがないです。」
「…君、死のうとしたの?」
「はい。」
「どうして?」
「それは…」
彼の直球な質問にすぐ答えられない。
「ふーん、まあ、いいや。」
千李が俯き黙るとアクアブルーの瞳の彼は、興味を削がれたのかそれ以上は聞いてこなかった。
「では、貴女は自分はこの国の者ではなく、別の場所から偶然やってきた…そう言いたいのですか?ただ自分の命を絶つために飛び降りて死んだはずだったが、気が付いたらここにいて囚われていたと?」
シルバーグレイの髪をした男性が尋ねる。
「…はい。」
「そんな話を真に受けると、本気で思っているのですか?」
口調は穏やかだが、彼もまた眼差しは冷ややかなままだ。その眼差しが更に鋭さを増す。
「馬鹿だな。どうせ命が惜しくて嘘付くなら、もっとましな嘘にするんだったな。」
黒眼の彼が冷笑を浮かべながら言う。
「そうですね。いかにも嘘だと、立証せずともわかることですね。」
「だね。…本当にバカな子。」
駄目だ。三人は私の話を信じていない。確かに普通に考えれば、嘘だと思うのが当たり前だけど、実際これは本当のことで、信じて貰えないとなると自分は恐らく…。殺されるのならまだいい。けれどきっと彼らは簡単に楽にしてはくれない。やはりどうにかして信じて貰わないと。
「本当なんです!信じてください!私は本当に!…」
「 ー だったらさあ…」
アクアブルーの瞳の彼は、いいことを思いついたとでも言いたそうな目で千李を見て笑った。その瞳の冷たさはそのままに。残りの二人も彼をみる。
「だったら本当に彼女が嘘をついていないのか確かめようよ。あるじゃん?簡単にこの国の者かどうかを調べられる方法がさ。」
「ああ、そう言えばそうだな。」
「確かに、今思えば簡単な事でしたね。」
「でしょ?」
二人もアクアブルーの瞳の彼の言いたいことを理解したらしい。簡単に調べられる方法がある、そう言っていたけれど一体どんな方法なのだろうか…。そうこう考えていると、
「それじゃ、早いとこ終わらせようか?」
そう言いながら千李の元に視線を戻し笑う。彼がゆっくりと千李の横たわるベッドの傍らに腰を下ろす。何をされるのかと彼の目を見返していると、
「やっぱり俺がやる。」
ぶっきらぼうに言われて黒眼の彼が近づいた。
「えーえ、アルーシャがやるの?つまらないな。まあ、いいけどさ。」
千李の両サイドに二人が腰掛ける状態になり、それをシルバーグレイの髪の男性はベッドの近くに立ち見ている。
「あの、調べるって何を ー 」
言葉は途中で遮られる。黒眼の彼の腕が千李の肩を掴み、自分自身も私に跨る状態になる。一瞬で千李の中を恐怖が支配した。彼の手が肩から離れたのと同時に、不自由な体をどうにかして起こそうと試みる。彼がチっと舌打ちしたのが聞こえたが、構わずもがいた。
ー でも、腕が縛られたこんな状態で太刀打ち出来るほど甘いわけが無い。彼が片手で肩を押さえたと思うと、もう片方の手が千李の首へ伸びる。その手に力が込められ、息が止まる。目にも涙が浮かんだ。彼が顔を近付けながら口を開く。
「大人しくしろ。次に動けば、殺す。」
千李は彼の放つ威圧感に体が怯んだ。…でも、殺してもらえるのなら、その方がいい。これから何をされるのかさえ分からず、怯えるよりもよっぽど。それに、元々私は死ぬつもりだったのだ。今更何を迷うだろうか。
彼が首元にあった手を離し、その手が胸元のシャツのボタンに伸びた。もう片方の腕も添え、外そうとする。
「嫌っ!! ー 」
正面に向いていた体を無理矢理横に向け、もう一度必死に暴れた。体を左右に動かし暴れるが、今度は先程と違う手に抑えられる。
「ねえ、君って本当にバカなの?動けば殺すって言われたでしょ。言葉の意味くらい分かってるよね?」
私を抑えたアクアブルーの瞳の彼が冷たく笑う。
「殺すのなら殺せばいいでしょ…。」
俯き、小声で呟いた。
「えっ?」
「殺すなら殺せばいいって言ったの!私は元々死ぬつもりだった。だから屋上から飛んだのよ!動けば殺すんでしょ?だったら早く殺せばいい。私にはもうこの世にだってなんのみれんも無い。訳のわからない事されたり、苦しみながら生かされるくらいなら殺してもらう方がずっと良いわ!」
一気に叫んだせいで息が上がる。ゼイゼイという千李の荒い息遣いがやけに大きく聞こえた。暫くの沈黙のあと先に口を開いたのは黒眼の彼。
「ふっ、気が変わった。」
「えっ?…」
「そんなに殺して欲しいというのなら、簡単には殺せないな。」
面白そうに千李を見ながら言う。
「…そ、んな」
「そうだね。殺して欲しいって相手を殺してあげたんじゃつまらないし。」
「そう言うことだ。…続けるぞ。」
千李は目の前が真っ白になる。やはり彼らは簡単には殺してくれなかった。こうなったからにはきっともう逃げることさえ出来ないのだろう。…死を選ぶことさえも許されない。
彼の手がまた、シャツのボタンにかかる。千李にはもう先程と同じ抵抗は出来なかった。ボタンが上から順に一つ、また一つと外されていく。最後のボタンが外され、シャツを左右に開かれる。三人の前に醜態を晒しているのだと思うと、自然に涙が頬を伝った。彼の手が肌に触れる。ビクリと体が緊張した。
「…この辺にはないみたいだね。」
「ああ。」
二人の会話からして何かを探しているようだ。だが、千李にはこれっと言って身体に特徴などない。目で見て探せるほどのものなら、心当たりくらいあるはずだ。
「 ーーっ!」
彼の手が下着へ伸び、それをそのまま上へとずらされる。これまで誰にも晒したことなどない場所を無理矢理露わにされ、羞恥に千李の眼から再び涙が溢れた。これ以上何をされるのだろうという不安に体が震え出す。
「うっ、ひっく…ううっ…」
声が抑えきれなくなって、嗚咽混じりに泣いた。ああ、私はどうなるのだろう。この先に待つであろう更なる地獄を思っていた、その時、ふっと体への負荷が無くなった。千李の方を抑えていた手は無くなり、上に跨っていた体も離された。ベッドの両サイドにいた二人が立ち上がる。何故手が止まったのかは分からなかったが、恐怖心から千李は離れて行った二人を見ることは出来なかった。ベッドに残された自分自身が、シャツを開け放たれ胸を晒しているのだという状況のままであり、尚且つ未だに腕は後ろに拘束されたままであることを思い出して、体を横向け膝を曲げ体を丸めた。そうしてまた、声を抑えながら泣いた。
初めて書かせて頂きましたヾ(@⌒ー⌒@)ノ
初upですね♪───O(≧∇≦)O────♪
これからだどんどん続きを書いていけるのだと思うとワクワクします\(//∇//)\
さてさて、中途半端なところで切ってしまいましたが…
千李のこれからの無事を願いましょう。
まだまだ始まったばかり、これからも頑張ります( ´ ▽ ` )ノ
ここまで読んでくださりありがとうございました(=´∀`)人(´∀`=)