表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サキュバスは今日も夢を見る  作者: 佐藤つかさ
第二章 ~クラリス・リベルテと夢の先~
8/17

7.街 ~paradise~

 最初に目に入ったのは、見慣れた天井だった。

 

「…………」

 

 上体を起こし、寝ぼけて鈍った頭を軽く振ってみる。

 

「……酷い夢」

 

 言いながら、右肩に軽く触れる。いびつに盛り上がった傷跡のような腫れが指先でこすれた。

 実際には傷跡などではなく、寄生樹と呼ばれる植物がクラリスに取り付いているのだ。言ってみるならそう――“呪い”のようなもの。

  

「……痛い」

 

 酷く潰れたような声だった。

 

 

 

 夢から現実に回帰したクラリスは、水浴びをしてほこりを落とし、軽い朝食を摂るとさっそく仕事に取り掛かる。

 色とりどりの花が活けられている花瓶。それが6つ。趣味や飾りにしてはやや多すぎる。

 活けていた花をすくい上げ、枯れた花や折れた花を丹念に取り除き、綺麗な花だけを選別してリボンで綺麗にラッピングしていく。

 

 クラリスの仕事は花売りだ。幸せを売るのが彼女の役目。

 だから彼女は今日もティル・ナ・ノーグで花を売る。

 

 華やかなファッションショップや飲食店が並ぶ繁華街に、買い物を楽しむ観光客が溢れかえっている。明るいカラーでまとめられたレンガが敷かれた床の上でクラリスが笑顔を振りまいていると、ふとある看板が目に飛び込んできた。

 

 

 Welcome to Ti'r na nO'g! 

 欢迎来 Ti'r na nO'g!

 Lorem Ti'r na nO'g!

 ようこそ、ティル・ナ・ノーグへ!

 

 

 あらゆる国の言語で書かれた歓迎の言葉メッセージ

 よく耳をすませてみれば、聞こえてくる観光客のざわめきも様々な音色を持っていることがわかるだろう。

 老若男女とか、そういう話ではない。人間の言葉。耳の尖ったエルフの言葉。力強いドワーフの言葉。小さなホビットの言葉。この街は色とりどりの声であふれかえっている。

 ここで暮らすほとんどの人がティル・ナ・ノーグの公用語オフィシャル・ランゲージを覚えるようにはなるものの、観光地の色合いが強いこの街では、今日もバリエーション豊かな言語が飛びかっているのだ。

 

 

 ありとあらゆる人種が集まった街。それがティル・ナ・ノーグ。

 

 

「…………」

 

 ふと、クラリスは空を仰ぐ。

 

「……空が高いなぁ」

 

 どこまでもどこまでも高い、空の青。

 海を溶かしたような明るい青が、暖色系でまとめられた街並みにひとつのアクセントをくわえてくれていた。

 

 そこに、白い花を添えてみる。

 商品の白百合を空に掲げて、クラリスはふと想いにふける。

 

 花が上に伸びるのは、天をうらやんでいるからなのだと誰かが言っていた。

 空をつかめる日を夢見て、かれらは毎日手を伸ばしているのだと。

 そういえば花の形は、まるで“伸ばした手”のようではないか。

 

 

 クラリスは思う。

 自分の夢は何なのだろう。

 花にすら夢があるというのに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ