4.都 ~Tir na nOg~
その街は、ティル・ナ・ノーグと呼ばれていた。
〝常若の国〟あるいは〝勝利者の島〟という意味がこめられているという。
だがこの街は島にあるわけではない。広大な大陸の湾岸部に作られており、国土面積は20万平方キルトマイス――この世界における長さの単位。1キルトマイス=1キロメートル――で、人口は3万人。これはこの大陸に内在する都市の中でも最大級を誇る。その市民を守るために、街の四方をぶ厚い城壁で囲んでいるのは当然と言えるだろう。
この城塞都市には、両極端が同居している。
街に歩を進めれば、ブランネージュ城やサン・クール寺院などといった文明開化の〝華〟が並んでいる。
しかし、ほんの少し足を運べば、人跡未踏の森や平原など、文明を寄せ付けぬまま歴史以前の姿を今も保っている。
現在と過去。異なる二つが同居していながら微塵も違和感を抱かない。それがティル・ナ・ノーグなのだ。
この国が人々に重宝されている理由。それは規制が少なく低税率な自由経済を特徴という点にほかならない。
わかりやすく言うならば〝安くて自由な取引ができる〟ということだ。さらにありていなことを言ってしまうなら――楽に儲かる。
だからたくさんの人々が集まる。この国は貿易によって潤っているのだ。人口3万人は伊達じゃない。
住む人が多くなってくると、人種というものは極めて雑多になってくるものだ。
人間、エルフ、ゴブリン、サキュバス、狐人……。
耳がとがっていたり角が生えていたり翼をはためかせていたりと実に多彩。まさに世界人種の展覧会。
それ故なのか、ここでは他人の肌の色や姿かたちを気にすることはない。それもまた、この街が好まれる理由の一つでもある。
一見するとまとまりのない雑多なグループのようだが、時折共通点が見受けられるときがある。
それはタトゥーだ。
足、胸、腕、首、体のどこかしらに存在する刻印。老若男女模様色々奇々怪々。
しかしこれは決してカラダに墨を入れているわけではない。かといって焼きゴテで熱したものでもない。
では何なのか。――それは魔法だ。
ティル・ナ・ノーグという言葉にはもうひとつの意味があると言われている。――〝妖精の住み家〟である。
この世界において妖精とは世界の創造主であり――神。
そしてその妖精の亜種とも呼べる〝精霊〟という生き物が存在する。神ではないが人でもない。そんな存在。
精霊と契約を結ぶことで、ヒトは魔法を使うことができるようになる。科学を超えた力を、まるで指を曲げるようにいともたやすく使うことができる。人の手に神が宿るのだ。
そういう人種を、人々は〝魔法使い〟と呼ぶ。
ティル・ナ・ノーグの総人口は3万人。現在確認されている魔法使いの数は300人とされている。おおよそ人口の1%が魔法使いだという言い方もできるだろう。
この街には、1%の神がいる。
この街はいつか、いつしか、魔法使いに侵略されてしまう日が来るのだろうか?
いやいや。