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サキュバスは今日も夢を見る  作者: 佐藤つかさ
第二章 ~クラリス・リベルテと夢の先~
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16.東 ~zipangu~

 天馬騎士団の本部は広い。

 元々美術館だった場所を買い取ったからか、そこは軍事防衛拠点というよりも宮殿のような荘厳さをただよわせていた。


 ソハヤはその宮殿を進む。

 

 開けた空間に草履の摺音あしおとが木霊し、不気味に響き渡る。

 吸い込まれるほど高い天井を支えているのは柱と同化した何体もの巨人(タイタン)のオブジェ。そういえば、何処かに空を支え続ける巨人の神話なんてなかっただろうか?

 世界ティル・ナ・ノーグを支える小さな巨人たち――天馬騎士団を象徴しているようでもあった。

 

「…………」

 なんとも言えぬ顔でソハヤは辺りを見回し始めていた。どうにも落ち着かない。天井は高く、果てが見えないくらい広い。まるで小人にでもなってしまったような気分だった。何より彼を苛立たせているのは――

 

「気味悪ィな」

 

 ソハヤは思わず文句をこぼす。その声もまた、薄暗い闇の中に溶けていった。まだ昼にもかかわらず周囲は暗い。なまじ広いために太陽光や照明だけではこの空間全てを照らしきれないのだ。

 

「……ま、“あいつ”にゃ、おあつらえ向きか」

 

 誰に言うわけでもなく、そんなことをつぶやきながらソハヤは着物の袖に手を突っ込んで薄闇の中をまっすぐ進む。

 やがてソハヤは陽の光も入らない地下通路に足を運んでいた。ひと気のない静けさが冷気とともにソハヤを包む。

 

「…………」

 彼は怯えるわけでもなく手近なランタンに手を伸ばすと、慣れた手つきで鯨油オイルに火を灯す。もしもソハヤの祖国の人間が見たならば、その姿は提灯ちょうちんを片手に夜町よまちをほっつく商人あきんどのように見えたかもしれない。

 通路の奥は暗い。小さな照明器具程度で奥を照らせるわけもなく、薄気味の悪い闇がソハヤを見つめていた。

 

「…………」

 するといきなりソハヤはたつの方角――右斜め後ろを振り返った。

 そしておもむろに口を開く。

 

「おい、ウーホァン。いるか?」

 

 誰もいない、古ぼけた漆喰しっくいの壁に向かって彼は言う。

 返事はない。

 

「おい。早く出て来い」

  

 やはり返事はない。

 あるはずが無――

 

 

「うるさいですねぇ。そんなに騒がなくったって、出てきますよ」

 

 

 なんということだろう。

 漆喰の壁をすり抜け、ヒトが姿を現したではないか。

 まるで煙をかき分けたかのように簡単に。まるで窓を開けるみたいにごく自然に。その男はまるで壁など無いかのようの優雅に厚さ10セルトマイス――現代に訳すと厚さ10センチメートル――を超える分厚い壁を通り抜けてみせたのだ。

 

 これは手品ではない。よってトリックなどない。――けどタネならある。

 

 簡単なことだ。彼は壁をすり抜ける力をもった種族なのだ。

 その名も――

 

「ヴァンパイアってのは便利なモンだな」

 

 さして驚いた様子もなく、ランタンを揺らしてソハヤは呟いた。

 そしてウーホァンと呼ばれた男は、頬を緩めて悠然と微笑んでみせる。

 その顔はひどく青白い。彼の体温は――この通路を占める冷気とほぼ同等であるかのようだった。

 

「そうでもありませんよ。ここまでくるのは骨が折れました」

 

 ヴァンパイアの弱点は紫外線光だ。陽射しの強いこの時間帯に出歩くのは、彼にとっては火炙りの中を進むことに近しい。そういう意味ではこの狭い地下通路はウーホァンにとっておあつらえ向きと言えた。

 

「どうやってここまで来たんだよ?」

 

 ソハヤの質問に、ウーホァンは黙って横の部屋を指差した。

 ここに転がっていたのは、なんとも古めかしい重みのあるオーク材の箱――棺桶だった。

 

「……宅配かよ」

 

 呆れたようにソハヤがつぶやく。確かに密封性の高い棺桶で運べば紫外線は防げるだろう。屋根がある馬車に載せるのならばなおさらだ。


「箱詰めで馬車に揺られる気分はどうだった?」

 

「実にいい乗り心地でした。さすが私が作ったゴーレムです」

 

 鼻高々にウーホァンが告げる。彼の目は自分の子供を自慢する親バカのように輝いている。

 ウーホァンは発明家――とりわけゴーレム技術を専門にしている。

 今現在ティル・ナ・ノーグの交通網は馬車がほとんどである。その馬車を牽引している馬は現在、クラリスがカフェテリアで見たように幾度のバージョンアップを経た最新型のゴーレムが採用されている。そしてそのほとんどがウーホァンが開発したゴーレムの技術が用いられているのである。

 自分の技術が社会に必要とされている。発明家にとって、こんなに嬉しいことはない。

 

 不意にソハヤは真面目な顔つきに変わる。

  

「イーバ出現の警報が流れてる。お前、イーバについて何か知ってることはあるか?」

  

 だからウーホァンも正直に答えた。

 

「もちろん知ってますよ。なんなら研究データもお見せしましょうか?」


 思わぬ彼の言葉に、ソハヤは怪訝そうに顔をしかめた。

  

「……随分詳しそうな口ぶりじゃねえか?」

 

「当然です。私が研究していたんですから」


 イーバ01の研究データをゴーレム開発に転用させた男――ウーホァンは自信満々に頷いた。

Special Thanks


ウーホァン(U-huan/漢字表記:無歓)

考案――「やられたらやり返す。やられてなくても誰彼構わず八つ当たりだ!」佐藤つかさ

ビジュアルデザイナー――「オレ、オレンジ」麻葉紗綾さん

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