表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サキュバスは今日も夢を見る  作者: 佐藤つかさ
第二章 ~クラリス・リベルテと夢の先~
15/17

14.文 ~otegami~

 大通りを馬車が進む。

 力強い馬だ、とカフェテラス越しに眺めていたクラリスは思った。 

 細い足で石畳を打ち鳴らし、重たいはずの馬車を難なく引っ張り、一定の歩幅で優雅に進むその姿は気高く、頼もしく、そして美しい。

 

 ――しかしてその馬は生きていない。

 正確に言うなれば生き物ですらない。“ゴーレム”製の馬なのだ。

 

 ゴーレム。

 錬金術師が生み出した、自分で動く泥人形。

 詳しい技法はよく知らないが、土をこねる際に特殊な魔法を練りこむことで生まれるのだという。どういうわけか、その手の技術がこのティル・ナ・ノーグでは格段にレベルが高く、こうして人を運搬する馬車にも使われている。ほかにも人型のゴーレムが街のそこかしこにいるのをクラリスは見たことがある。

 土から生まれる生命は、どうやら草花だけではないらしい。

 

「…………」

 まだクラリスは大通りを見つめていた。

 演説を続ける天馬騎士団を横切るたくさんの馬車。その中に見慣れない馬がいるのをチラホラと見かける。今までの中で最もスラリとしていて洗練されていて、カッコ良かった。

 

 建物に掲げられている垂れ幕――ヴィジョンに目を向けると、まさにさっき見かけた馬がでかでかと映し出されている。

 

 ――近日バージョンアップした新型ゴーレム。安定性と速度をアップ。何より快適な乗り心地を――

 

 こういった近代化を見られるのが都会の醍醐味だ。けっこう楽しい。

 

 

「…………」

 クラリスは手紙を広げてみる。ミナーヴァからの手紙を。

 ミナーヴァは今、故郷キルシュブリューテに帰っているところだ。仲間が亡くなってしまったので葬式に参列するらしい。

 仲間も冒険者であり、冒険者らしく世界を歩き回り、冒険者らしく命を落としたのだという。ミナーヴァいわくその人は、神の遺産を探し求めていたのだとか。

 なぜ死んだのだろう。仲間はミナーヴァと同じサキュバスで歳も若い。冒険者らしい最後ということは何らかの事故か――殺されたか?

 モンスターにでも襲われたのだろうか? そんなことを思いながらクラリスは文面を目でなぞっていく。

 

 ――拝啓、クラリス様

 

 あまりのお堅い文章に、クラリスは苦笑してしまう。

 友達相手の手紙なのだから、そんなにかしこまらなくてもいいのに、こういうところが彼女は真面目だ。

 

 ――突然のことで申し訳ないのですが――

 

 ふと、何か物音がする。

 封筒から何かがこぼれ落ちたらしくて、慌ててクラリスはそれを拾い上げた。小さなビニール袋に何かが入っている。固い、小さな石のようなものだ。

 

 例えば、

 


「…………っ!?」

 その正体に、クラリスは衝撃を隠せずにはいられなかった。思わず投げ捨てたそれがミナーヴァの手紙の上で転がる。

 袋に入っているのは骨のカケラだった。リン酸カルシウムと脂肪で構成された物質。

 その色も形も、クラリスには見覚えがあった。考えてみるがいい。6年間それを持ち歩いていたのだから。

 骨の下にある手紙の一文が目に飛びこむ。

 

 ――この骨、覚えてない?

  

 覚えている。忘れるわけがない。

 だってさっきビンを出して確認したばかりなのだから!

 

 父の命を奪った仇――イーバ01の骨に、それはそっくりだった。

 

「……何よこれ……」

 かすれたような声を出してクラリスは、机に転がった骨を見つめている。

 6年前の痕跡が、クラリスを見て嘲笑っているような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ