11.目 ~manazashi~
誰かに見られている。
何処からかなんて分からない。だけど粘着質な視線だけが明確に感じられる。
――誰?
それが最初に思ったことだった。
――怖い。
それが二番目に思ったことだった。
唾を飲んで、クラリスは見えない何かに対して身構える。それが何の意味もなさないことなど百も承知だったが、そうせずにはいられなかった。
緊張の影響なのか群衆がぼやけて見える。天馬騎士団の声も群衆の喧騒も聞こえない。ただ、心臓の鼓動だけがうるさくて――
ぬめりのある手に心臓を鷲掴みにされたような、何ともいえない恐怖がクラリスにまとわりついてきていた。
何なの? 誰なの?
時間だけが流れていき、増していくのは恐怖ばかり。
積もる焦りが不安になって、やがて埒が明かぬという苛立ちになり、最終的に決意へと変わる。
視線は後ろから来ている。つまり、相手は背後にいるということ――
やるべきことはひとつ。
「――っ!」
意を決して、クラリスは振り返った。
「…………?」
誰もいない。
視界に入るのは、怖い顔で振り返った少女に対する大衆の怪訝な目。
あんなに不快だった視線も、今となっては微塵も感じられない。
「…………」
ホッと安堵して、クラリスはもう一度振り返った。
目の前に、それがいた。




