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9.想 ~omoide~
怪物。――嫌な響きだ。
クラリスは心底からそう思った。
かつて彼女の父親――天馬騎士団であった父は、故郷であるキルシュブリューテに帰る途中、怪物に襲われ命を落とした。
そのあと死亡報告を聞いた母親の――心臓が潰れていくような音がしたのを、クラリスは今でも忘れられない。忘れることなんかできない。
そうだ。母親が発狂したのも、クラリスに呪いを押し付けて自害したのも、考えてみれば“あれ”がきっかけだった。
すべての不幸の元凶。それがあの怪物だ。
誰も見たことのない未知の怪物。のちに“イーバ01”と名付けられることになったあの怪物に――
「…………」
群衆の渦中で、クラリスはほんの少し顔をしかめた。天馬騎士団の話はまだ続いている。
根に侵食されて醜く盛り上がった右肩に、彼女はもう片方の綺麗な手で静かに爪を立てていた。
痛いのは肩か、それとも心か――彼女にはわからなかった。




