探偵の小さく大きな事件
短い、と思います
ある街に貧しい黒猫の親子がいた。
ある日のこと。この貧しい猫親子がいつものようにご飯を探しに出かけた。ある料理店の裏に余り物の魚を母猫が見つけ、子猫に「ここで待っていてね」というと魚を取りに向かった。
しばらくして戻ってくると子猫の姿が見当たらない。どうやら勝手にどこかへ行って迷子になったようだ。母猫が子猫を探しに行こうかここで待っていようか悩んでいた時、一人の人間がこちらを見て駆け寄ってきた。
その人間は探偵で、最近まったく以来のこない要は「暇人」。
そんなときうろうろしている猫を見つけ、迷い猫かと思い保護しようと思った。――のだが、何故か声が聞こえた。透き通るような声が。
「私の子はどこに行ったの」
不安で不安で、仕方がないような声だ。探偵はあたりを見回すが、人どころか目の前の猫と自分しかいない。探偵は恐る恐る確認するように呟いた。
「……この猫がしゃべったのか?」
猫が驚いたように目を見開いた。
だが、すぐに「私の子が迷子になったんです。探してください」と探偵に告げた。探偵はニヤリと怪しさと頼もしさを混ぜ合わせたような笑みを浮かべ、
「事件ですね。この私でよければ喜んで。――いくつか質問に答えてください。なに、あなたの子どもについてですよ」
もしも、探偵と猫のほかに誰かいたならその“誰か”はおかしな光景を目の当たりにしただろう。数十分間、猫と探偵が話しているという、世にも奇妙な光景を。
「ありがとうございました。この事件には私、興味を持ちました。全力を尽くさせていただきます」
母猫と、見つかり次第家へ子猫を連れていくという約束をし、探偵は母猫に教えてもらった通りの似顔絵を描き始めた。
「あの母猫が言っていた、子猫がいつ可能性の高い公園へ行くか」
そう決め、忘れていた似顔絵を公園への道中に貼ろうかと考えつつ、探偵の足は公園へと向かい始めた。
公園へ着くまでにいろんな仮説を立ててみたがどれも推測だけで立ててしまい、「プロの探偵がこんなのでどうする」と苦笑いを浮かべる。
「ッ?!あ、すみません」
何かに思い切り当たってしまった探偵。数歩下がり、もう一度顔を見て謝ろうと顔を上げると公園の看板が目の前に。
「看板かよ!?」
「どうされました?」
いきなり声をかけられ、見るだけでわかるほど吃驚しながら後ろを振り向くと、犬を連れた女性がニコニコと笑いながら立っていた。
「あ、任務中でして。この子猫の情報を知りませんか?」
冷静な声を出せているかどうか探偵は冷や汗をかきつつ、残っていた子猫の似顔絵を女性に見せる。
「んー……。その子だと思われる子なら公園の向こうの草むらにいたわよ」
「ご協力感謝します!」
女性に礼を言い、言われた草むらへ入る。
小さな石が集められている一角があり、探偵は調べようと近づく。
「……子猫の……?」
「は?」
「いえ、独り言なのでおきになさらず……って猫?!」
「今更」
「そ、そうですね。って違う。この猫見ませんでした?」
子猫の似顔絵を喋りかけてきた白猫に見せる探偵。
「……見てないね」
「そうですか……。ご協力感謝します」
「ちゃんと協力できなくてすまんね」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
白猫に礼を告げ草むらを出る。
(……進めたと思ったんだけどな……。一進一退とは正にこのことか……)
探偵がうっすらと限界を感じ始める。
その時、探偵の脳裏に子猫を心配した母猫が浮かぶ。
「――やらないと」
探偵の瞳には、決心がついたときの光が宿っている。どうやら責任感と母猫への優しさが探偵をもう一度立ち上がらせたようだ。
「子猫探し再開だ」
歩いて歩いて歩いた。
聞いて聞いて聞いた。
そのたびに落胆して、母猫の顔を思い出し、立ち上がった。
「……見、つけた……!」
なんとなく、最初の公園に戻って草むらの中をのぞくと、探していた子猫らしき猫が現れた。
本当に心が折れそうだった探偵は、心の底から喜んだ。
「……ッと……」
探偵は似顔絵を取りだし、目の前の子猫とその似顔絵を見比べ、確かめる。
「識別中……ってね」
似顔絵と目の前の子猫の顔は一致。探偵は子猫を抱き上げ、
「任務完了。子猫を保護しました――」
探偵は子猫を抱きながら、母猫が待つ、猫の親子の家へ向かった。
「――チセ!」
母猫は、探偵が抱いている子猫へ走る。
「ママ!」
探偵は何も言わずに、子猫をそっとおろす。
(感動の再開ってやつだなあ……)
邪魔しないように、と探偵はそうっと反対の方向を向く。
「ありがとうございました。本当に感謝してもしきれません――」
「私は事件を解決に導くのを生業とする者ですから」
後ろを振り向かずにそう告げ、歩き出す。
「ニャー」
小さな猫の鳴き声が聞こえ、探偵が静かに後ろを振り向くと、そこには黒猫の親子の――素人でも餓死したとわかるくらい痩せ細った――骸が横たわっていた。
探偵はその痩せ細った骸を抱き上げ、そばの草むらの中に2匹そろって埋め、小さな墓を作る。
そして、その墓の前で手を合わせる。
(私――いや、僕には向こうのことはわからないけど、飢えで死ぬことよりも苦しいことがないように……いってらっしゃい)
探偵はすっくと立ち上がり、くるりと反対方向を向き、歩き出した――。
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