四十八、アランから指輪の贈り物
「国境付近で魔物が出現し、戦っていたのにどういうことだ!」
アランの怒りを込めた声は、謁見の間の端まで響いた。
「魔物だと!?」
王が玉座から立ち上がり、アランの報告を待った。
「王! 急ぎ、失礼する」
アランは僕から離れて王の御前に進んだ。
「話せ」
王は玉座に座り、アランは王に頭を下げた。
「国境付近で大量の魔物が発生し、少人数の騎士達で戦い、国境を死守していました」
謁見の間の臣下達は、ざわめいた。
「ここ数年は現れなかったのに!」
「なぜだ……」
そんな声が聞こえてきた。
「減るばかりか大量に押し寄せてきて、いったん簡易な結界の壁を張り、撤退してきました」
「うむ! アランが、その場に遭遇できたのから食い止めることができたのだな。礼を言う!」
恐ろしい。アランがいなかったら……もしかして、国を越えて魔物が押し寄せてきたかもしれない。
「ただ結界の壁は、長くは持ちません。ただちに騎士達を集め、向かうことをお許し下さい」
アランは胸の前に拳を当て、騎士の礼をした。
「分かった。ただちに騎士団の者達を、国境へと向かわせるように」
「はっ!」
振り返り、僕の方へ歩いてくる。
「ニール、簡易に説明をしてくれないか?」
アランがニールさんに話しかける。
「はい」
今までの経緯をアランに、ニールさんは話をした。
「王。先日の事件で公にされてませんでしたが」
アランがニールさんの話を聞いて王へと、向き合った。
「子供達……、獣人の子供達も含む救出を、このルカのおかげで解決できました」
アランの話を聞いて、謁見の間の皆が歓声をあげた。
「あの方が、子供達を助けたのね!」
「あの事件の……」
「素晴らしい。ルカ様というのね」
「和平大使にと、任命するのは納得いたします。……だが!」
アランの鋭い、低く静かな声が響くと歓声が消えて静かになった。
「ルカを、獣人の王の伴侶にすることは許せません!」
ビリビリと、人や建物までが震えるような声だった。
大きな手のひらで僕の肩を掴み、二人の王を睨んでいる。
「ルカは俺の伴侶となる者! いくら王命といえ、個人の意思をないがしろにするべきではありません」
「アラン」
平民の僕は王に逆らえない。アランでも、不敬では?
僕がハラハラしながらアランと王様のにらみ合いを交互に見ていたら、獣人の王が近づいてきた。
アランは僕を背中側に隠した。
「アラン。ルカはお前の匂いがたくさんついていたけれど、まだお前のモノじゃない」
「……!」
アランの匂い? 獣人はわかるのだろうか。よくわからないけれど。
「ルカ。我は、お前が気に入った」
獣人の王は僕に手を差し出してきた。この手を取れと言うこと? それは出来ない。けれど和平が……。
パンッ!
アランがその手を払い除けた。ザワ……! と騒がしくなる。
「ルカが、誰かが犠牲になる和平なんてロクなものじゃない!」
「ルカ」
アランが僕の頬に触れた。
頬を両手で包まれて、唇に少しざらついた感触。
唇が覆われ……、今、アランにキスをされていると、遅れて気がついた。
おお――!
謁見の間に皆の歓声が響いていく。
長い時間のように感じたけれど、唇と唇が離れたとき僕は寂しい気持ちになった。
離れたくなくて、アランに抱きついた。
「俺とルカは、伴侶になります」
きっぱりと二人の王に宣言した。
二人の王を見ると、ポカンと口を開けていた。
「あのアランが……。そのように、その者を大事にして……」
この国の王が言った。あのアラン……と言ったことが気になったけれど。
あはははははは!
突然、獣人の王が明るく笑った。
「そうか。アランよ。その者がそんなに大事か! 我々獣人は、愛情深い。二人を無理やり引き離そうとしない。残念だが、あきらめようとしよう!」
獣人の王は片手のひらを上にあげて、残念そうに苦笑いした。
「すまぬ。アラン、ルカ。そなた達を引き離すのはやめよう。ナルン国 王の名のもと、二人を認めよう!」
わぁああああ――――! 今まで一番、大きな歓声があがった。……僕はホッとした。
アランは僕の頬にチュッと、キスをした。
「惚気るなよ……」
獣人の王が、ハァ……と、ため息を吐きながら言った。
「すまん、ルカ。俺は騎士団を率いて、行かなければならない」
「はい」
大変な事態になっている。魔物が国境付近まで迫っている。
「あの! 発言をお許し願います!」
身分の低いものから話しかけるなんて不敬と分かっていても、緊急事態だから勇気を出して僕は王様に話しかけた。
「よい。何かあるのか?」
アランも僕を見て驚いていた。
「僕は、ナルン国全体に結界を張れます」
アランを、アランが守ったこの国を助けたい。一歩前に出て、王にひざまつく。
「ばかな。そのような結界は、誰もできるはずない」
僕の言葉が信じられず、王は僕に言った。
「いいえ。ルカなら出来るでしょう」
前に歩み出たのは、僕を診てくれた医師で筆頭魔法使いのリヴァイさんだった。
「リヴァイ! おぬしがそう申すならば……。ルカ、頼めるか?」
「はい!」
僕はお城の一番高い見張り台で、結界を張ることにした。
「ルカ、アラン。頼むぞ」
王様直々に言われて緊張した。
「はい!」
「はっ!」
見張り台で、アランに引き止められて振り返った。
「これを」
僕の手を取られて、左手の指に綺麗な指輪をつけてくれた。その指輪は宝石がいくつかはめられていて、高価な物とわかる。
「これは?」
でもなんだか……見たことがあるような指輪。
「バレンシア公爵家に、代々引き継がれてきた指輪だ」
代々引き継がれてきた指輪? それは……。
「伴侶となるものに贈る」
僕はその指輪の意味を理解し、喜びを噛み締めた。




