四十、アラン様からのお誘い その二
「そうですね……。アラン様のこのお菓子は栄養価が高いので、子供達や皆に食べてもらいたいのは分かります」
僕はメイドのアリーさんの願いを聞いて考える。ウンウン! とアリーさんは心配になるほど頷いた。
「まあ……。今、ちょっとアラン様は忙しいので、このことは保留に」
ニールさんが、暴走気味のアリーさんを制止した。
期待しています! と言って下がっていった。
「お店を広くするのも、考えようかな……」
アラン様のお菓子を、お店に並べるのも良いな。お忙しいみたいだから、すぐに相談はできないかな。
「アラン様は今、忙しいけれど休みをつくるために急いで仕事をしているよ。どこか気分転換に出かけられたらいいね」
ニールさんが僕にウインクしながら言った。
バナナケーキをパクリと、口に入れるとバナナの甘い味と香りがして美味しい。
「美味しいです」
お庭は自然がいっぱいで、風が気持ちいい。大きな木の下で、こんな美味しいお菓子を食べさせてもらって贅沢だなぁ……。
青空を眺めながら、僕も仕事を頑張ろうと思った。
「あ、そういえば。依頼した武器防具に加護をつけていただく仕事ですが、納品日が決まりました」
ニールさんが書類をカバンから出してテーブルに置いた。
「見せてもらってもいいですか?」
「どうぞ」
ニールさんの長い腕が、楽に僕まで届く。書類を見ると、期限に余裕があって良かった。
「了解しました」
「……ルカ君にも関係があった事件だから話すけれど。獣人の子達だけ、まだこの国にいるんだ」
「え、そうなのですか?」
もう無事に帰ったと思っていたのに。
「ちょっと体調を崩した子が数人いて、こちらで診て体調が戻りしだい、獣人の方たちへ引き渡す予定になっている」
ニールさんの表情があまりよくない。
「何か、問題でも?」
「獣人の子供達引き渡すときに、和平を結ぼうという案がありまして。なかなかふさわしい外交官がいないのです……」
「それは大変ですね」
難しい問題だ。でも和平を結べたら、皆が暮らしやすくなるのに。
獣人は力が強く、気性が荒い者もいるけど頼りになる存在だ。あたりかまわず凶暴なことはしない。
誤解を解けば、仲良くなれるのに。
「ああ、ごめんね! ルカ君と話していると落ち着くっていうか、安心するというか。……アラン様に怒られそうだな」
ナイショだよ? と、人差し指を唇の前に立てた。
「では、そろそろ戻らないとアラン様に怒られますので。またね、ルカ君」
「はい。ありがとう御座います」
ニールさんは急いで仕事に戻っていった。
僕は依頼された、武器防具に加護をつける仕事を再開した。
主に防護魔法の加護をつけるこの依頼だけど、先程ニールさんが話をしていた和平関係で使われる武器防具だろうか。
魔法を唱えて防具に加護を付加する。
自分でも不思議だけど、魔法を使うとキラキラと光が降ってくる。
それが綺麗なので、魔法を使うのが嫌いじゃない。
魔法が使えるのを知られたくなかったから、隠して使っていた。でもこうやって、アラン様のお庭の角の作業小屋で魔法を使えるのは嬉しい。
夢中で作業をしていたらいつの間にか、夕方になっていた。
「ルカ」
「えっ、アラン様? もうこんな時間!? お帰りなさい!」
アラン様が、帰ってきて作業小屋まで呼びに来てくれた。
「ただいま。仕事の依頼品を作っていたのか」
騎士服から着替えて、シャツとズボンだけのラフな服装でもアラン様の鍛えた体躯は隠せない。
かっこいい……。
「はい。ニールさんが納品日を教えてくれたので、その日に合わせて始めました」
「そうか。無理はするな。休みながら作業をしないと駄目だ」
僕が、休み無しで作業していたのを注意された。夢中になってしまうと時間を忘れてしまう。
アラン様の身長に合わない高さのドアから、屈んで入ってくる。身長が高いと大変だ。
「初めて作業をしているのを見た」
そうかも。腕まくりして、ちょっと汗をかいて普段の僕と違う姿かもしれない。
「汗臭いかも。すみません」
目の前に立てかけた武器防具へ、加護をつけていく作業。簡単に見えるけれど、アクセサリーへつけるのに違って武器防具は重い。
一つ一つ持ち上げて、専用の道具に立てかけて加護をつけて、降ろして……とけっこう重労働だ。たくさんある。
「ルカは臭くない。大丈夫だ」
そうかな? それならいいけれど。
アラン様は木でできた作業小屋の梁に手をかけて、僕を見ている。
「邪魔か?」
僕が黙っていたからか、邪魔かと聞いてきた。
「そんなことはないです。片づけようかなと思って」
加護をつけた武器防具を分けて、静かに大きな箱に入れた。
「今度の休みなんだが……」
「はい」
あ! アラン様の休日だ。一緒にいられるかな? 僕は嬉しくなる。
「屋敷のばかりじゃ窮屈だろう。外に、ピクニックでも行かないか?」
え! ピクニック?
「わ! 行きたいです! アラン様とお出かけですね!」
ああ。と返事したアラン様は笑った。
「顔に油がついてるぞ」
武器防具についてあった油が、顔についてしまったらしい。袖で拭おうとしたけど、借りている服だったのに気がついてやめた。
「動くな……」
アラン様はハンカチをポケットから取り出して、顔についた油を拭いてくれた。
「あ、ありがとう御座います」
片手が頬に触れて、心臓がうるさく鳴る。
顔が近くて、でもアラン様は拭き取るのに集中して目線は合ってない。
僕はアラン様の顔をジッと見てしまう。身長差があって、こんなに近くで顔が見られないから。
このまま、アラン様の顔をいつまでも見ていたい。




