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二、指輪


 

  「ルカ、ありがとうね」

「ご馳走様でした。お茶、美味しかったです」

 

 今日最後の配達。孤児院で皆の面倒をみてくれたマリア姉さんに届けたのは、身を守るブレスレット。

 孤児院に足繁く来てくれていた子爵に見初められて結婚し、今はお腹の中に赤ちゃんがいる。

 

 子爵はとても良い人で身分差を気にせず、孤児院の子供達を何かと気にかけてくれている。僕が15歳になって孤児院を出る時は、腕の良い武器防具職人の親方に紹介してくれて弟子にしてもらった。


 そこで僕は雑用係から始めて、親方の助手と武器防具に魔法を付加する修行をした。

 初めは失敗ばかりだったけれど、だんだんコツが分かってきて武器防具に、上手に魔法を付けられた。

 武器防具に1つ、魔法を付けられれば良い値段がつく。

 夢中で練習しているうちに、僕は幾つも魔法を付けられるようになった。

 だが魔法を幾つも付けられるのは、この国では誰もいない事が親方の様子と話から分かった。このままでは国に召し上げられて、自由に暮らせなくなる。


 不自由な暮らしは嫌だったし、目立ちたくない事情がルカにはあった。()()()親方にも秘密だったが、察したのか何も言われなかった。

「魔法は1つだけ。武器防具やアクセサリーにつけろ。それ以上付けるなら隠せ」

親方の言う通りにした。今の所、バレてはいない。

 

 魔物よけの魔法にプラスして、魔物から姿が見えない魔法をアクセサリーにこっそりと付けたら効果が抜群だった。今では親方から独立して、主にアクセサリー等に魔法を付加している。

 

 武器防具に魔法を付加するのは、お城の騎士さん達にだけ注文を受けている。

 犯罪に使われたら僕も同罪だ。それだけは避けたい。


 騎士さん達の中には魔法が使える人もいる。補助的に増幅させる魔法付加や、その人が望む魔法を武器防具に付ける依頼が多くお得意様が増えた。

武器防具を持ち込み、魔法を付加するのは良い値段になる。


 対してアクセサリーは宝石等に魔法を込めるので、原価が高くなってしまう。宝石店でない為、あまり高くても売れないので難しい所だ。


「じゃあそろそろ帰ります。お城に用事が出来たので。子爵様に『ルカが来ました』とお伝え下さい。順調で良かった。また何かあったら連絡して下さい」

 見送ろうとしたマリア姉さんをソファに座ってもらい、子爵様の屋敷を後にした。


 マリア姉さんの住んでいるこの地区は、貴族の屋敷がある高級住宅街だ。ここからお城までの道沿いに、高級なお店などが並んでいる。

僕みたいな平民が貴族の屋敷に出入り出来るのは、マリア姉さんや旦那様の子爵様が歓迎して許してくれてるからだ。


 平民と貴族は、口には出さないけれど身分の差はある。

だけどこの国の王様は、実力ある者には身分に関係なく歓迎している。


 そんなことを考えながらお城に着いた。

真っ白な高い城壁に囲まれた、綺麗なお城だ。中に入るまで幾つかの検問所がある。一番初めの入口、お店の配達で何回も訪れた事があって顔なじみの門番さんが居た。

「おっ? ルカじゃないか。配達?」

親しげに声をかけてくれたのは僕と同じくらいの年の、くるくる茶色巻き毛の新米騎士 ホップさん。ホッとする。


 「いえ。今日はお城に配達ではなくて、落とし物を届けに来ました」「落とし物?」

 僕が袋から取り出した、柔らかい布に包んだ物を目の前に見せてみた。それは太陽の光に反射してキラキラと輝いた。

 「……これは大事な物だな。持ち主に心当たりは?」

ホップさんはきりっと顔が引き締まって、僕に聞いた。


 「はい。この指輪の持ち主様は、英雄騎士団長様のアラン•バレンシア様の物でございます」

 僕が持ち主の名を告げると、後ろで僕たちの話を聞いていたもう一人の門番さんが近寄ってきた。

 「話は聞こえていた。(わし)が取り次いでやろう」

 もう一人の門番さんは現役引退した強者騎士さんと、ホップさんに聞いたことがある。この人ならば英雄騎士様まで、きちんと届けてくれる手続きをしてくれるだろう。

 

「まずはおぬしの名を記入してから預かろう」

白いひげの騎士さんは年齢はかなり上だが、眼光は鋭くて怖い位だ。お年を召したとはいえ、かんたんに怪しい者が門をくぐれそうもない。

 「はい!」

 記入した台紙には国の紋章が押されており、正式な届け出と見て取れた。


 「この正式な届出書と共に、その指輪を英雄騎士に届けよう」

 「ありがとう御座います」

僕は指輪を布に包み、袋に入れて門番さんに渡した。

 「ではお願いします」 

 お礼を言い、僕はお城を後にした。


 これであの指輪は英雄騎士様の元に戻るだろう。

「良かった……」

誰もいないお城からの帰り道で呟いた。英雄騎士様には(おん)がある。だいぶ昔のことで英雄騎士様はたぶん覚えてないだろうけれど、少しでも役に立てればいいな。そんなことを考えながら歩いていた。


 英雄騎士様の元に無事に届けられてならそれでいい。

事務的な事は、あの門番さんがやってくれると言ってくれたし良かった。今日はもう配達も終わったし、家に帰ったら頂いたお菓子を食べてゆっくりしようかな。


 のんきに僕は上機嫌に家へ帰った。

 

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