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BLR15「ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました」  作者: 厘


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十二、甘いもの


 

「甘いものは、好き……ですけど」

 

 この国ではお菓子は高級品だ。なかなか食べられない。身を守った方が良いと言われていたのに、なぜ突然甘いものが好きと聞いたのだろう?

 

「実は……。菓子作りが趣味なんだが、食べに来ないか?」


 ……え、菓子作りが趣味? 誰がだろう?

 

「どなたが、菓子作りを趣味になさっているのですか?」

 僕はアラン様の周囲の誰かが、趣味で作っていらっしゃるのかと思って聞いてみた。


「いや、違う。俺が。菓子作りを趣味にしている。恥ずかしいが……」

 なんだか慌てて訂正している。

「えっ!? バレンシア公爵様が、ですか?」

 意外な趣味で驚いた。


「見かけによらないと、部下に言われる」

でしょうね……。僕もまさかと思った。アラン様は恥ずかしいのか、顔を赤くしていた。

「お菓子作りが趣味って、素敵ですね」

 僕には作れないから凄いと思う。


「そう言ってもらえると、嬉しい」

 照れて頭をかいた。

「あっ、それで話は終わりじゃない。家の者も、側近も甘いものが好きではなくて、せっかく菓子を作ったのに誰も食べてくれないのだ。それで……ルカ」

「はい」

 僕はアラン様の話の続きを待った。


「俺が作った物で良かったら、食べてくれないか?」

え! 嬉しい! アラン様の手作りのお菓子を食べられるなんて!

「嬉しいです! あ、でも僕で良いのですか?」

身分差を忘れていけない。……不安になってしまった。


「君が一緒に作った菓子を食べてくれたら、嬉しい」

見上げないとアラン様の顔が見えないくらい、身長差がある。少し照れて誘ってくれたアラン様が、可愛いかった。


「ぜひ! 楽しみです」

嬉しい。

「では、近いうちに連絡するので都合の良い日を教えてくれ。また」

 アラン様はお店の扉を開いた。カランカランと、ドアのベルが鳴る。


「楽しかった。ありがとう、ルカ」

そう言って帰って行った。

「こちらこそ、ありがとう御座いました」

 外はすっかりと暗くなってしまっていた。アラン様の姿が見えなくなるまで見送っていた。


「……嘘みたい」

憧れていた、英雄騎士 アラン•バレンシア公爵様が僕の家で一緒にお茶を飲めたなんて。

 幸せだ。

こんな幸せが続いたらいいのに。

 その夜の僕は嬉しくて、なかなか眠れなかった。



 朝になって昨日の出来事は夢だったのかと疑った。

リビングまで寝間着のまま行き、アラン様が座っていた場所を眺める。

 

 あそこの椅子にアラン様が座っていて、一緒にお茶を飲んだのが昨日のことなのに遠く感じた。

「もう二度とないと思うけれど、思い出が出来て良かった」

国の英雄騎士様と会えただけ幸運。話せた僕は運が良かった。

 

 なのに、欲が出てしまう。

もっと会いたい。もっと話したい。もっと近くにいたい。はぁ……と僕はため息をついた。


  僕は着替えて洗面室に行き、鏡を見た。

顔を洗う時、長い前髪が濡れるのでピンで前髪をとめている。

額に醜い傷(・)が鏡に映っていた。


 さらわれて助けられたあと、僕は保護者の父に引き渡された。気を失っていた僕は、隠せなかった耳としっぽを見られた。

『お前は獣人だったのか! よくも私を騙したな!』

 目が覚めた僕は父に切りつけられた。


 母は僕をかばい、深く傷を負った。

僕の額にはそのとき出来た醜い傷がある。その傷を見るたびに、あのときのことがよみがえる。

「もう忘れるんだ」

 自分に言い聞かせて鏡に水をかけて汚れを拭いた。僕の傷が綺麗に無くなるように。


 いつものように前髪を下ろして、フードを深く被ってリビングに向かった。

 食欲がないので、ホットミルクを朝ごはんがわりに飲んでいた。


 今日は特に、急がなければならない依頼はない。

「どうしようかなぁ……」

 何かする気分じゃない。

んーー! と腕を上に伸ばした。

「はぁ……。とりあえず、お店を開けるか」


 キッチンでマグカップを洗ってから、洗面室で歯を磨く。ダラダラとゆっくり歯を磨いた。

 リビングは夜のうちに掃除を終えているので、お店の方を掃除する。


 ほうきを持ってお店のドアを開けた。……今日も天気が良さそうだ。

お店の前とお隣さんの前まで、ほうきで掃除をする。

 お隣さんは足の悪いおばあさんが住んでいるので、代わりに掃除をするととても喜んでくれた。


 落ち葉が増えてきたので、綺麗にほうきで掃いていく。だいたい綺麗になって、葉をちり取りで取って袋に入れた。

「これでよし」

 袋口を縛り、裏庭に持って行こうとした。

 

「お早う御座います」

聞き覚えのない声の人が、僕に挨拶してきた。

 振り返って声の主を見ると、騎士服を着た男性が立っていた。


「お早う御座います……?」

見たこともない騎士さんだ。とりあえず挨拶は返す。

「初めまして。私はアラン•バレンシア様から頼まれました側近の ニール•サンライト と申します」

アラン様の側近? え? 頼まれた?


「ルカ……様でしょうか?」

品の良い仕草。貴族様だと思う。そんな方が僕に何の用だろう。

「はい。そうですが……」


「お茶会の招待状を届けに参りました」

 胸の内側にあるポケットから封筒を取り出した。

「あ、お茶会と言っても、団長とルカ様と二人きりのプライベートなお茶会なのでご安心なさって下さい」

 にっこりと笑う騎士さんはとても美形で、きっとモテそうと思った。


 僕はハッ! と我に返った。 

「バレンシア公爵様からですか!? え。社交辞令じゃなかったんだ……」

 まさかと思った。本人はそのつもりがなくても、忙しい方だ。僕なんかの平民の約束は、忙しさにまぎれて約束を果たせないと半分あきらめていた。


「あの方は、できない約束はしませんよ」

側近のニールさんがにっこりと笑って言った。


 

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