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一、瘦せっぽちのルカ


 

 大陸で一番大きなナルン王国。

神が作った国と言われ、豊かな土壌と水源に恵まれて大きく発展していった。

 その為、近隣諸国が豊富な資源を奪おうとして争いが絶えなかった。


 しかし長年の争いを、『無敵の剣鬼』と呼ばれる泣く子も黙る強面(こわもて)の騎士団長が終決させた。

平和を望んでいたナルン王国の人々は喜んだ。

 争いを終決させた騎士団長を称え、英雄と呼んだ。


  争いの終決の2年後――。



 争いが終決してから人々は、平和であることに感謝し穏やかな日々を過ごしていた。

ナルン王国の下町は職人が多く、商店街はいつも賑わっていて新鮮な食べ物や質の良い製品が並んでいる。


 商店街の端に評判の、ひっそりと建つ小さなお店があった。

お店の名は【猫の目】。店主の名は、ルカ。18歳だが、同じ年頃の青年より痩せている。

 

 細身の体に合わない大きめなローブ、フードを深く被っている。フードから見える前髪は、くすんだ長い金髪で目は隠れて見えない。顔さえもよく見えてない。でもルカからは皆と同じ様に周りが見えていた。


 カランカランと、お店の入り口のドアに取り付けられた鈴が鳴る。

「ルカ! 隣の国へ嫁いた娘にのもとへ会いに行ったけど、ここで買った魔物避けのペンダントのおかげで助かったわ! ありがとう!」

勢いよくお店に入ってきたのは、近所の大きな商店の奥様。いつもお洒落で、両手にたくさんの指輪をつけている。僕にお礼を言ってきた。

「娘さんに会えて良かったですね! お元気でしたか?」

 僕の返事に奥様は話が弾んだ。


「これは隣の国の名物ですって。貴方にお土産! また、こちらで何か購入させてもらうわね」

「ありがとう御座います!」

奥様は上機嫌で店を後にした。僕の作ったペンダントが役に立って良かった。


 人の出入りは少ないけれど、お店はお客様が途切れず繁盛している。僕は、天涯孤独の孤児院育ち……と言われている。本当は違うけど言えない事情がある。

 

この国は一部の人だけに使える魔法が、神様から贈られる。僕はその一人。

 その能力を使って武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。

評判を聞き、加護を求めてお店に来てくれている。

 

「あっ! 配達に行かなきゃ!」

人を雇うお金がないので、簡単なアクセサリーの製造、作ったアクセサリーに加護付加。店番、配達などを一人でやっていた。まだ独り立ちをしたばかり。食べていくだけで精一杯だった。


 入り口のドアにかかっているプレートを、営業中から配達中にひっくり返す。

賑やかな商店街を配達の荷物を持って歩き出す。

「あ、ルカ! 多めにパンを焼いたから分けてあげるよ!」

 事情を知る、ご近所のパン屋さんが声をかけてくれた。

「わあ! 助かります! 後で伺います!」

 ガリガリ細身で身なりはパッとしないが、ご近所さん達は何かと気にかけてくれている。


「良かった……。今日はスープとパンと、お土産の名物のお菓子が食べられる」

 食費を抑えているので、パンが食べられる日は嬉しい。つい顔がほころぶ。依頼のあった物を届けに商店街を進んでいた。

 

「ルカ――! ちゃんと食べているか?」

診療所の入り口ドアが開いて、ルカに話しかけてきた。

「ナナセ医師! た、食べてますよ……」

 以前、仕事に夢中でお店の中で倒れていたのをお客さんが発見してくれて、この診療所に運ばれた事がある。ナナセ医師とはお店が出来た時からご近所さんで、いつも健康を心配されている。

 

「ならいいが。暇な時はお茶でも飲みに来い」

「はい。ありがとう御座います」

お茶を飲みに誘ってくれると、色々と美味しい物をごちそうしてくれる。僕はペコリと頭を下げた。


 僕はこの古い賑やかな商店街が好きだ。ご近所さんは優しいし皆、職人気質で誇りを持って仕事をしていた。

 平和になってからは、近隣諸国から人が訪れて良質な商品がたくさん売れている。お互いの国の特産品を、平和的に輸入輸出できたおかげだ。


 商店街の道を挟んだ両側に並ぶお店の品物はそれぞれ個性的に飾られているが、屋根の色は青と決まっている。ナルン国の国旗の色だ。

そしてナルン王国の人は花が好き。店先に花が飾られている。

 よその国から来た旅人は、その統一された屋根の色と飾られた花々が綺麗だと言う。僕もそう思っていたので嬉しい。


 顔見知りの店員さん達は僕に気づくと手を振ったり、声をかけてくれる。

僕は幸せな気分で、空と屋根の青色を見ながら歩いていた。


 

コツン……。

「え?」

 足下に何かが触れて、金属が転がる音が聞こえた。

「何か……」

視線を下に向けて、音の元を探してみた。お店とお店の隙間に、光る何かが落ちている。


 どうやら足で蹴ってしまって転がったようだ。

まだお昼前だったので、人がそんなに多くなくて良かった。お昼時や夕食前にはかなり混み合う。

 道から逸れて、店と店の隙間に入り込む。

暗い場所にわずかな光を反射させて光る()


「あれ? これは……」

拾ってみると、それは金の指輪だった。色んな宝石が埋め込まれた高価な指輪。

 でもルカには見覚えがあった。

 

「……届けないと、いけないな」

傷が付かないように、拾った指輪を柔らかい布で包んで袋に入れた。配達後、届けることにした。

 


 

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