おやつがしゃべった!
小学6年生の女の子、花咲美香はある日曜日、おやつを食べようと思って冷蔵庫を開けた。プリンとみかんゼリーがあり、どちらを食べようか迷った結果、プリンを食べることに決めた。近くのテーブルでプリンをお皿に出し、いただきますと言ってスプーンですくおうとしたときだった。
「待って!」
突然、男の声でプリンが喋り出した。驚いた美香は手を止めた。
「ゼリーさんにお別れを言わせて欲しいんだ」
「プリンがしゃべった!?」
美香は混乱してプリンに質問した。
「何でしゃべってるの!?」
「僕は元々しゃべれたんだよ。今まで人間に声が聞こえてなかっただけで」
「じゃあ何で急に私に声が聞こえるようになったの?」
「それは僕には分からないよ」
「はぁ!?」
「とにかく、ゼリーさんに会わせて!」
美香は状況がよく分からないまま、冷蔵庫からみかんゼリーを取り出した。
「プリンさん!」
「ゼリーもしゃべった!?」
ゼリーが女の声でしゃべりだし、また美香が驚いた。
「この子はプリンさんを選んだはずなのに、どうして私も出してきたの?それに、なぜか私の声が聞こえるみたいだけど・・・」
プリンは、なぜ自分たちの声が美香に聞こえるのかは分からないこと、自分が彼女にゼリーに会いたいとお願いしたことを説明した。
(一体何が起きてるの!?)
プリンとゼリーがしゃべりだすというあり得ない出来事を目の前にして、美香はほおをつねった。痛みを感じ、夢ではないことを確認した。
「私たち、これで本当にお別れなのね」
「ゼリーさん、短い間だったけれど、僕は君に出会えて本当に幸せだったよ。同じかごに入れられたあの日からずっと」
この2人は二日前、美香の母親が買ってきていた。かごとは買い物かごのことである。同じかごに入れられ、そのときにプリンとゼリーは恋に落ちたのだった。
「私もよ、プリンさん。愛しているわ」
「僕も愛してるよ」
思いがけない会話を聞いて、美香はポカーンと口を開けた。
「君、待たせてごめんね。もう食べていいよ」
美香は、もうプリンを食べる気は起こらなかった。何となくプリンとゼリーから食べないでくれオーラを感じたからだ。
「もういいよ。食べない」
「え?いいのかい?」
「他のおやつ食べるから。2人で一緒にいて良いよ」
「本当に!?」
ゼリーが明るい大声で言った。
「だったらプリンさん、デートしに行きましょう!」
「そうだね!」
プリンは嬉しそうに言って、お皿ごと宙に浮き始めた。
「浮いた!?」
あり得ない光景を目にして美香は叫んだ。
「何で浮けんの!?」
「僕にも理由は分からないよ」
「はあぁぁ!?」
次々と非現実的なことが起こり、美香はとうとう理解するのを諦めた。
「あなたお願い。私を容器から出してくれる?」
ゼリーをお皿に出すと、プリンと同じく宙に浮き始め、2人は一緒に外へ出て行った。
「何だったの一体・・・」
2人を見送った美香が別のおやつを食べようとしたときだった。
「私を食べてくれませんか?」
「あたいを食べて〜」
今度はメロンパンとジャムパンがしゃべり始めた。メロンパンは男、ジャムパンは女の声だった。
「またか・・・」
美香はしゃべるおやつにもう驚かなくなった。彼女はどっちを食べるか迷った。その様子を見て、メロンパンがある提案をした。
「それではここは公平に、賞味期限で決めましょう」
「あ、それいいね〜」
ジャムパンはメロンパンの提案に賛成した。
「ではそうしましょう。僕は3日後です」
「あたいも3日後〜」
一瞬、3人の間で沈黙が流れた。
「どうすんの〜決まんないじゃ〜ん」
「では別の方法で決めましょうか」
メロンパンが気を取り直していこうとしたとき、プリンとゼリーが息を切らしながら戻ってきた。
「何で戻ってきたの!?」
美香が驚いて聞くと、プリンが答えた。2人でデートをしていたとき、人間たちに勝手に写真を撮られ、追いかけ回されたらしい。
「そりゃそうなるわ!」
食べ物が動いてしゃべっていたら、誰だって気になるだろう。美香が呆れていると、ゼリーがある訴えを始めた。
「私、気づいたの。この世界に私たちの居場所はないんだって。結局誰かに食べられる運命なんだって。だからお願い、私とプリンを一緒に食べて!」
「えぇ!?」
まさかのお願いに、美香は素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっと〜今はあたいとメロンパンのどっちを食べるか決めてるとこなんですけど〜別の日にしてくれる〜?」
ジャムパンがゼリーに抗議をしてきた。
「何ですって!?その子が先に食べようとしてたのはプリンさんなのよ!?」
「え〜1度出てったくせに〜。そもそも胃の中でも一緒にいたいからってプリンとゼリーを一緒に食べろとか〜そっちの事情を押し付けてくんなっつーの〜」
「何ですってー!」
「ゼリーさん、落ち着いて・・・」
激高しているゼリーを見かねて、プリンがなだめた。
「ではここは公平に、あみだくじで決めましょう」
このとき、美香はキレた。
「もういい!」
おやつたちは、ビクッとして美香を見た。
「別のおやつ買ってくる!」
「ええええ!」
止めようとするおやつたちを放っておいて、美香はお小遣いを持って家から出て行った。おやつたちはなぜ美香が怒ったのか分からず、途方に暮れた。帰ってきた彼女はおやつたちを無視した。
次の日の昼、美香は学校、両親は仕事で人がいないときのことだった。
「初めまして!僕はドーナツだ!」
美香が昨日買ってきたおやつが、他のおやつたちに挨拶していた。1人称は僕だが、ドーナツは女の子だ。
「おぉ〜この家にはおやつがいっぱいだな〜。・・・なのにわざわざ僕を買ってきたってことは、何か事情があるんだな?」
「鋭いですね、ドーナツさん。実は・・・」
ドーナツの勘の良さに感心したメロンパンは、昨日の出来事を話した。
「あぁ〜そう言うことね」
「何か分かったんですか?」
「君、あの子の話聞いてないでしょ」
「え?」
「君があみだくじで決めようって言ったときに怒ったんだよね?それってつまり、君があの子の食べるおやつを勝手に決めようとしたからじゃない?」
「あ・・・」
「それだけじゃないよ。君たち全員、あの子の方を向いてなかったでしょ」
ドーナツ以外のおやつたちは黙り込んだ。
「そのことを謝ってきたら?」
おやつたちは、美香に謝罪することを決めた。
美香が学校に帰ってくると、おやつたちは一斉に謝った。
「何で私が怒ったのか、分かった?」
「はい、ドーナツさんに言われて気づきました」
「ドーナツに?」
「そうだよー!」
ドーナツが勢いよく返事をした。
「本来食べるおやつを決めるのはあなたなのに、勝手に僕が決めようとしてごめんなさい」
「せっかく僕を選んでくれたのに、ゼリーさんと離れたくないって気持ちが出ちゃって・・・」
「私も、こっちの都合でプリンさんと一緒に食べてってお願いしたこと、謝ります」
「あたいも、ゼリーとけんかしてあんたの話聞こうとしなくてごめん・・・」
美香は、険しかった表情を緩めた。
「いいよ。許してあげる」
「本当ですか?」
メロンパンがおそるおそる聞いた。
「本当だよ」
おやつたちはほっとした。
「君、今日のおやつは何にする?」
ドーナツが美香に質問した。
「どうしよっかな〜」