悠久の少女と忙しない王子
よろしくお願いします
「必ず戻る」という言葉を残し、彼は去った。
私はまた一人になった。
*
私はとある国境沿いの森にある小屋で、薬草を作り売ったり庭の畑で野菜を育てたりしながら、今は一人で暮らしている。
名前はリラン。隣国生まれだが、小さい頃に人攫いにあい、この国まで連れてこられた。
幼い頃、私は父と母といろんな土地を転々としながら暮らしていた。大体一か所に4、5年くらいだろうか、それくらいで次の町へと引っ越す。その土地、土地で友達などはできなかったが、両親は愛情いっぱいに私を育ててくれたと思う。私は両親との生活を楽しんでいた記憶がある。
しかし、その生活は唐突に終わった。
ある日馬車の前に飛び出した子どもをかばった父が亡くなった。それからの母の憔悴はひどかった。母はみるみる元気がなくなり、最期はごめんねとつぶやくとあっという間に父の元へ旅立った。
私は一人ぼっちになってしまった。
その後私はその街の孤児院に入った。孤児院に入ってしばらくしたある夜、数人の子どもたちと寝ていたら、突然押し入ってきた者たちによって私だけが担ぎ出され、そのまま馬車の荷台に転がされた。
この森の近くで、私が乗せられていた馬車は飛び出してきた鹿にぶつかり横転し、その衝撃で私だけが馬車から転げ落ちた。次に気が付いたら小屋のベッドに寝かされていた。森の中で倒れていたところをおばあさんが助けてくれたそうだ。
隣国に戻っても親も帰る家もないと告げると、おばあさんは私の赤い目をよくのぞき込んで、私と同じような赤い目を細めた。それからおばあさんの住んでいた森の小屋に一緒に暮らすことになった。
私を見つけた日は、やけに動物や鳥が騒いで気になり森を見て回っていたら、倒れている私を見つけてかなり驚いたんだとあとになって話してくれた。
私は小さい頃から動物と意志疎通ができる。といっても言葉ではなく、善意や敵意などがなんとなく伝わる感じだ。それは動物側にも同じで私の感情も伝わっているようだ。
その後おばあさんに料理や洗濯、掃除、薬草づくりなどを教わった。近くの町にある薬草を買い取ってもらうお店にも紹介してもらった。一通り生きる術を教わり、二人で穏やかに暮らし、しばらくした頃おばあさんは静かに息を引き取った。
また私は一人置いていかれてしまった。
それからは一人で暮らしている。町の人からも町で暮らせばいいと誘われたが断った。「いろんな人がいるから」とおばあさんもあまり町には行かないほうがいいと言われていた。薬草づくりに必要な素材は全て森の中だし、私にはこの小屋での生活が一番都合か良かった。
「あら」
ある日森の中で足を怪我をしたウサギを見つけた。朝、庭に出ると数匹のウサギが木の陰からこちらを覗いていた。私が近づくと、何か伝えたいことがあるとばかりに距離を取りながら逃げていく。追いかけた先に一匹のウサギが横たわっていた。
私は小屋まで連れて帰り、手当てをした。
「これは痛いわね。だいぶ弱ってる。これ食べられる?」
ウサギは足から血を流してかなり衰弱していた。初めこそ警戒していたが、こちらの気持ちが伝わったようで、徐々に私に対する気持ちが暖かいものになっていったように思う。
すっかり元気になったウサギだが仲間のウサギの元には戻らず、それからも一緒に小屋で暮らした。日中は好きに庭や森を走り回り、時々草花を加えて私の前にそっと置く。
「くれるの?ありがとう。でもこの草はあなたの好きな草よね。あなたが食べていいのよ」
鼻をひくひくさせて、首をかしげてるがやがてはむはむと草を食べ始めた。そのかわいい姿を見るだけでも随分癒された。夕方には小屋に来て、私のベッドのすぐそばで丸くなって眠った。私もウサギ用の寝床を用意したりと一人と一匹暮らしを楽しんだ。
のだが、数年たち年老いたウサギは丸くなったまま動かなくなった。
「私をまた一人になるの・・」私はウサギを胸にしながら泣いた。
ある日、青い小鳥が羽から血をにじませ、飛べないのか窓の外枠に止まっているのを見つけた。
鳥が痛がっているようなので、よく見てみると木の枝が刺さっているようだった。そっと枝を抜いてやる。傷がいえるまで面倒をみた。
青い小鳥は羽が治って放してやってからも毎日のように窓辺にやってきた。綺麗な鳴き声が聞こえると毎朝挨拶するのが私の楽しみになっていた。木の実や花を咥えてくることもあった。だが、その小鳥もやがて寿命を迎え、私はまた一人ぼっちの生活に戻った。
*
今思えば、その日も朝から森がざわついていた気がする。
それまでの静寂な暮らしを突如、変えたのは一人の青年だった。
森の東端は切り立った崖がそびえている。
常に日差しが制限されれる崖間際でしか生えない草もある。
私はその日もかごをしょって薬草の素材を探していた。
歩いていると鳥の鳴き声が上空から聞こえて、何かを伝えているようだった。さらにウサギも姿を見せ、ついてこいとばかりに森を進んでいく。導かれるようにして大きな木を回り込むと、そこで見つけたのは瀕死状態の横たわった青年だった。
もしかしたら、崖の上から落ちたのだろうか。
崖はかなり高くここから仰ぎ見ても崖の上を窺い知ることはできない。
声をかけると、「うっ」とうめき声が聞こえる。
とりあえず生きているようだ。落ちてきたのなら生い茂った木の枝や草がクッションになったのかもしれない。
しかし体の状態はとても良いとはいえない。頭から血が滲み、腕や足にもけがをしているようだ。着衣もあちこちが破れて、そこからも血が見える。全体にひどく汚れていた。
とりあえず、持っていた水で傷口を洗い、ハンカチで止血してみる。
といってもここではできることに限界がある。
私は着ていたケープで青年を包み、ずるずる引っ張り何とか小屋まで運んだ。重くて苦労していたら、鹿がどこかともなくやってきて、頭で後ろから押してくれた。
何とかベッドに寝かせつつ服を脱がし、体のけがを確認して小屋にある薬草を使って包帯を巻いた。
腕は骨折しているようだ。添え木をして、発熱に備えて熱さましを用意する。案の定、夜中になり熱が上がった。
彼が目を覚ましたのは翌日の夕方だった。
緩慢に開いた瞳は綺麗な青だった。
「っ痛、・・。んん、ここはどこだ?」
「国境に近い森の中よ。私はリラン。あなた名前は?」
「・・きれいだな、その赤い目・・、うーん名前・・、俺の名前・・?」
綺麗なのはあなたの方だと思いつつ、
「冗談にしては笑えないわね」
「これは何が入っているスープだ?ひどく珍妙な味がするが・・」
「味はイマイチだけど、体にはいいはずよ」
薬草入りスープはあまりお気に召さないようだが飲み干してくれた。
彼は少しずつ回復し、数日するとベッド上に上半身を起し食事をするようになった。
彼は頭を打ったせいなのか記憶を失っているようだった。
不便なのでレイと呼ぶことにした。
着ていた服はボロボロになっていたが、生地も良い物で緻密な刺繍も施してあった。
かなり高貴な身分かお金持ちのようだ。
服を見せても、特に思い出すこともないのか首を振るばかりだった。
「次は何をすれば良いのだ?」
それから1ヶ月ほどして体が動くようになると、レイは手伝いをしたい言い始めた。
小川に水汲みを頼めば、家にある水かめはすぐに満杯になった。
畑の水やりは畑が水浸しになる寸前で止めた。
薪割りを頼めば、初めは斧の使い方もままならなったが教えるとすぐにコツをつかんで薪の山が出来上がった。
綺麗な花があったと一抱えも積んできたこともあった。次からはそんなにいらないと伝える。
釣りに魚の捌き方、簡単な料理に洗濯も。初めは道具の使い方すらおぼつかないが、日に日にできることが増えていく。だが、基本的に加減を知らない。そして、とにかく忙しない。
次々と用事はないかと聞いてくる。
「そうねぇ、次は私とティータイムよ」
私は庭に置いてある手製のテーブルと切り株の椅子に彼を招いた。テーブルにはハーブティーとクッキーを用意する。
忙しいレイを見ているだけで私のほうが疲れてしまうため、彼をお茶に誘う。
「うむ。では失礼する」
彼は切り株に座るには優雅すぎる所作で席に着いた。
「レイはたぶん、かなり高い身分の方よね。何か思いださないの?」
「うーん。頭にかかった靄が薄くなってきた気もするが、まだはっきりはしないな。だが、ここにいるとむしろ帰ってきたという気分になる。とても心地が良い。」
「そう。まあ私としてはいつまでいてもらっても構わないけど、あなたの帰りを待っている人がいるかもしれないし」
「私の帰りを待つ者などいないよ」
記憶もないのにやけに確信めいた発言だ。
「わからないわよ。記憶、まだ戻ってないんでしょ」
やや目線を下げて優雅にハーブティーを飲むレイの金髪を風がなでた。
「ふー、さてと。次は何をしようか?」
「ええっ、もうティータイムは終わりなの?!ほんとに忙しない人ね」
苦笑いしながら私はこれまでどうやって一人で生活してきたのかと思った。
レイは今までの私のワントーンの静寂の生活を一気ににぎやかなものに色づけてくれた。
*
「リラン、久しぶりじゃないか。元気にしてたかい」
薬草を買い取ってくれるよろず屋さんのおばさんが人懐っこい笑顔を見せた。
「ええ、元気よ。今日はこれだけの薬草を買い取りお願いします。代わりに卵とチーズ、あとハムもいただいていいかしら」
私は町のよろず屋さんに出かけていた。薬草を売って、必要なものを買う。
「しかし、リランはいつ見ても変わらないねぇ。どうしたらそんなに若さを保てるだい?」
「そんなことないですよ。おばさんだってお肌つやつやじゃないですか」
「えぇ、そ、そうかい。フフ。ほらこの前にリランが持ってきてくれた保湿クリームあったろ。あれを朝晩使ってるんだよ。いい香りもするし、肌の調子もいいのさ」
「まあ、使ってもらってありがとうございます。次回にもまた持ってきますね」
「本当かい。嬉しいねぇ。あ、そういえば次回は少し早めに来た方がいいかもよ。都から来た行商の話じゃ、都は隣国と戦争が始まるんじゃないかって話が出回ってて食糧品なんかの買占めが始まってるって」
「えっ、そんな急に戦争になるんですか?」
「なんでも少し前にお亡くなりになった王太子殿下は、実は隣国の手の者に暗殺されたって話でその報復戦争らしいんだよ」
「そうなんですか・・」
ここしばらく争いらしい争いもなく良好な関係だと思っていた両国間で、王太子殿下の暗殺事件が起こるなんて、すぐには信じられないが、本当ならこの国も黙っていないだろう。
「そんなバカな話があるかっ!何を考えておるのだ!」
小屋に戻り、おばさんから聞いた話をレイに伝えると、彼は椅子から立ち上がって憤慨した。
「レイ、落ち着いて。まだ戦争になるとは決まってないわ」
「しかし、もし始まってしまえば多くの血が流れる。なんともしても阻止せねば」
顎の手をあて考え込んだレイはやがて悲し気な顔を私に向けた。
「リラン、4年、いや5年ほど待っていてくれるか。必ず戻る」
*
そうレイが言い残して、いや、レイではなかった。サミュエル王太子殿下は都へと戻って行った。
戦争が始まるとされたきっかけはサミュエル王太子の暗殺。その王太子が生きていたとなれば戦争は起きないはずだ。
レイの記憶はわりと早く、何なら自分の着ていた服を見た後には今の自分が何者かを思い出したそうだ。
と同時に自分が崖から落とされたことも思いだした。
サミュエル王太子は第一王子だが側妃の子だ。王妃は長く子に恵まれず、今から12年前、サミュエル王子が12歳で立太子した。ところが、その直後、王妃が懐妊し、第二王子が生まれたのだ。
王妃は我が子を王位につかせたいと考えた。こうして水面下でサミュエル王子を排除しようとする動きが始まったそうだ。
「私は正直王位にそれほど執着はしていないのだがな」いっそ苦笑交じりに話し始めたサミュエル王太子は悲し気に顔を歪めた。側妃である母も実家の侯爵家も野心はない。だが、第二王子のカーク王子はまだ12歳になったばかりだ。国王がまだまだご健勝とはいえ手助けはいる。カーク王子が成人するまであと5年自分が王太子を務め、時が来れば王太子を辞しようとその旨を王妃に伝えた。だが、幾度も命を狙われることが続いたそうだ。そして今回は崖から落とされ、一時的に記憶を無くす事態になった。
「私はこれを機に城を去ろうと思ったのだ。王妃派は多勢だ。
いつも狙われているという気の抜けない城での生活に比べ、リランとの暮らしはようやく手に入れた安寧な時間だった。このままでいいと思ってしまった。
しかし、私は王太子としての責務を投げ出してはダメだったのだ。戦争を始めるなど断じてならぬ。その地位を甘受した者として、多くの民のため責務を最後まで完遂させてくる」
私はまた一人になった。でも、今回は約束がある。5年なんてわずかな時間だ。
サミュエル王太子はすぐに自らの無事を国民に知らせた。
国中が驚きと喜びに沸いた。どう、王妃側と交渉したのか、はたまた裏では攻防が続いていたのか、国境近くの森にいる私にはわからない。
戦争の噂はすっかりなくなり、人々の日々の暮らしは落ち着いたものになった。
私は今日も一人薬草を作る。
約束の5年が過ぎる頃、サミュエル王太子が病気療養のため、廃摘となり、成人したばかりのカーク王子の立太子が発表された。
その日も森の中はどこか落ち着ない雰囲気だった。
「ただいま。リラン」
「おかえりなさい!サミュエル王子殿下、いえ、レイ」
泣き笑いの私をレイはすっぽりと抱きしめた。
廃摘され、離宮に療養という名の幽閉されていたレイは、離宮の2階窓から飛び降り、数日をかけてこの森までたどり着いたそうだ。
「やつら、離宮に着いてしばらくしたら解放すると約束しておったが、やはり私をそのまま幽閉する気などなかったな。その日の夜中に堂々と扉を開けて刺客が入り込んできたわ。まあ、初めから信じてはいなかったから逃げる算段はつけておったのよ。今頃、私が落ちたという証言をもとに湖を一応捜索しておろう。この数年で私にも味方はできたのだ」
どこかドヤ顔のレイだが、あちこち切り傷だらけだ。いったいどんな道を来たのか。
しみるわよと言いながら傷を洗い軟膏をつける。
あらかた手当てが終わり、ハーブティーを飲み干したレイは
「さて、何から始めようか。水汲みか?薪わりか?」
本当に忙しなくてかなわない。
私は顔をほころばせた。
その後もレイはとにかく忙しなく動き続けた。
*
「ほら、水分をとって」
私は横たわった、しわが深く入った口元に湿らせた布を押し当てた。
「ああ」レイは閉じていた青い目をゆっくり開けた。
レイが再び森にやって来てからあっという間に40年余りが過ぎた。
子どもはできなかったが、二人で穏やかに暮らしてきた。
レイはここ数日ベッドから起き上がれない。
「ここに来てしばらくしていろいろ思い出したんだ・・。
私はリランに会うのは3回目だね」
レイは昔を懐かしみながら、ゆったりと言葉をつむぐ。
「そうね、初めはウサギだったかしら。次はルリビタキね。いつも私と出会う時は怪我していたわね。あなたはどうしてこんなに私に会いにきてくれるの?」
「それはリランが一人は淋しいって言ったから。・・また置いていくのかと言ったから」
「私が一人は淋しいと言ったら、生まれ変わってそばにきてくれたの?」
私の揶揄い半分の問いに対してレイの声色は真剣だ。
「ああ、そうだ。今世は人に産まれた。しかし直接言葉が交わせるのはいいな・・・。次も人としてリランに会いたい。・・必ずリランの元に戻るから待っていてくれるか」
「約束は嬉しいけれど、・・あなたは残酷で傲慢ね」
「え?」
「そうやって、私に会いに来てまた何度でも私を置いていく気なのね。体の傷は癒すことができるかもしれないけど、寿命はどうしようもない。目の前で消えゆく命をただただ見送るしかない。例え約束があったとしても一度でも置いていかれるのはとても辛いのよ」
レイは私の頬に節くれだった手を伸ばし、赤い瞳からあふれた涙をぬぐう。
*
私の深い赤い目はとてもめずらしい。母譲りの深い赤いだ。
自らの命が尽きることを悟った母が全てを伝えてくれた。
母は竜人と呼ばれた者の血筋なのだそうだ。つまり私もだ。
竜人族が人の里に下りて数百年が過ぎた。少しずつ人と交ざり、かつては竜人族なら誰もができた竜化も今はできるほど竜人族の血が濃い者もういない。動物の気持ちがなんとなく伝わるのは竜人族の血のなごりかもしれない。
ぱっと見には人族とほとんど変わらないが、特異的なのはその濃い赤目と寿命だ。
生まれて10年くらいは人の子と同様に成長する。そこから極端に成長というか老化が遅くなる。
私は見た目は20歳前後くらいだ。でも産まれてからの年数でいうとすでに90年近いはずだ。平均的な寿命は700年から800年ほどらしい。とはいえ寿命も人族と交わることで短くはなってきたらしい。
父は人族だが、竜人族の血が入っていた母はいつまでも若い見た目のまま変わらない。父は全てを受け入れ母と結婚したそうだ。
徐々に人族と交ざりごく普通に暮らす竜人族の末裔だが、竜人族の不老不死とも思える性質を羨む人族もかつては多くいた。
羨望はやがて畏れから恐れに変わり、一部の人族が竜人族の血を引く者を排除する動きが始まった。
別に他の人間に害をなそうがなさなそうが関係なく、赤い目の者ならば片っ端から迫害した。
赤目の悪魔狩りと呼ばれた。
中には竜人族の血を引く者を連れ去り、劣悪な環境で見世物にするようなどちらが悪魔かわからないことをする者まで現れた。
もちろん、全ての人族がそうだったわけではない。一部の限られた集団だけだ。
一所に居続ければ、違和感に気づく人が出てくる。それを気づかれないように両親は転々とした生活をしていたのだ。
今から80年ほど前、現に幼い私は隣国で悪魔狩りにあったが、今住むこの国は竜人族に対しての排他的な考えの人は少ない。
私の素性を知った上でおばあさんは隣国に帰すことなくここで保護してくれた。ただ多くの人がいる町ではなく森に住み続けた。もしかしたらおばあさんにも同族の血が流れていたかもしれない。
悪魔狩りの考えは時が流れるのと共に廃れ、現在は隣国でもほぼ残ってない。竜人族の血がますます人と交ざり、強く竜人族の特徴である深い赤色の目が出る者が少なくなってきたこともある。
竜人族の血を引く者にとって、排除されるかもしれないという不安は徐々に少なくなった。
しかし、短くなってきたとはいえ人族より圧倒的に長い生の時間。
常に付きまとう深い孤独には慣れることはない。
*
「リラン、すまない。私は確かに傲慢であったな・・。リランのそばで生きさえすれば、それだけでいいと思っていた。・・悠久に、等しい時間を生きるリランにとっては、私がそばにいた時間など、あっという間だ。・・また一人残していくが、次こそはリランと同じ竜人族の血をひいて産まれてこよう・・」
「そんな都合よく、生まれ変わりはできないわよ。記憶だってないだろうし」
「フフフ、大丈夫だ。・・私はやると決めたことは必ず、やり遂げるさ・・もう3回も出会えただろう」
「全く根拠がないわね。どこからその自信が出てくるの?」
「それは、リランが私を助け、必要としてくれて、愛してくれた・・。私もリランを必要とし愛したから。愛は強いんだ。それに私はかなり執念深いんだよ。・・リランは100歳くらい年下でも気にしないだろ・・」
レイの意識が朦朧としてきた。
「ええ、ええ。レイ、私もあなたを愛しているわ。だからまた私に会いに来て」
私はレイの手を握りながら何度もうなずき答える。
レイは私の言葉を聞いたからか、一瞬、微笑みを浮かべ眠った。
その夜、レイは忙しないその一生を終えた。
私はまた一人になった。
*
あれから何年が経っただろうか。
コトンとドアの外で音がした気がする。窓にも小鳥が集まっている。
思えば、早朝から森がざわついている気がする。
私は薬草を作る手を止め、小屋のドアを開け森に駆けだした。
<終わり>
この作品を見つけて読んでくださり、ありがとうございました。