28 羽の形
「ラグ、魔法陣が起動してるにゃ」
ラグはすぐ医務室にもどった。
団員たちは体に力が入りにくいのか、どこかにもたれるような格好をしている。
「リナ」
リナの体がぼんやり発光している。
「やつらはリナの位置を特定しているから、魔法陣を起動して、リナに魔力を注ぎ込んでいるんだにゃ」
ノワールはラグの肩を降りて、リナのいるベッドの端に乗った。
「連れもどす意図ではない?」
「だろうにゃ。多少危険はあるが、リナの体内の異物を壊すにゃ」
ノワールの前脚が光った、が。
同時にリナの体が光った。
「にゃ?」
ノワールがもう一度試みる。
しかしまたリナの体が光る。呼応しているのはラグも見てわかった。
「どういうことです」
「防がれたにゃ」
「師匠の魔法がですか?」
ラグは、そんなところを見たことがなかった。
距離を取って魔法の範囲から外れたり、効果を減らそうとしたりする相手はいた。しかし、このような距離で無効化されたことは一度もない。
ドラゴンに対してもそうだ。
「リナを抱えて街の外に逃げるにゃ」
「はい」
ラグがリナの足と肩を持ち上げようとした。
「うっ」
ラグは後頭部を殴られたような衝撃に膝が曲がる。
いったん手を引いた。
ラグは細く呼吸をして、炎の中に両手を入れるかのような覚悟をした。
「待つにゃ」
いつになく鋭い言い方だったので手を止める。
「外に出るにゃ」
「なぜです?」
「やれ」
「わかりました」
ラグはすぐ言い、ノワールを抱えてまた裏口から出た。
「跳ぶにゃ。街の全景が見える高さまで」
「はい」
ラグは言われるまま、速やかに脚に力を集中し、開放した。
地面を潰し、矢のように跳び上がったラグの体。
上空でセランダの街を見下ろしていた。
「これは……?」
セランダは、上から見るとほぼ円形の壁の内側にあった。
その街の道に、緑色の光が通っている。
街の中心部に強い光があり、それから警備団、光導院、領主の館の位置にも強い光があった。
それらを血管のようにつなぐような道が光っていた。
「地下の魔法陣は、バラバラにも機能するが、ひとつにまとまれば大きな魔法陣として機能する。それだけなら良かったにゃ。それだけなら。だが、その形が問題にゃ」
血管のように広がる緑色の光は、炎のようにも見える両翼を示していた。
ある鳥の羽だ。
その鳥は希少性が高く、ほとんど実際の鳥を見たことがある人はいない。だがその羽の形は広く知られていた。ラグですら見たことがある。
ある鎧、ある縦、ある兜、ある剣にそろって刻まれている意匠だった。
「勇者の印にゃ」
落ちてきたラグは、膝を使って力を殺しながら着地した。それでも大きな音を立てて石畳を破壊していた。
「なぜそんな形をしているんですか」
「わしが直接、出向いたことがなかったのがこんな失態につながるとはにゃ」
「どういう意味です?」
「ここはおそらく、聖都の上に作られた街にゃ。あんな人間が使うには高度だと思ったがにゃ。なんということはない、過去の遺物を動かしていた、というわけにゃ」
「遺物? なにが起きるんですか?」
「あの魔法陣はその上にいる生物から力を吸収しているにゃ。街の住民にゃ。だから団員たちはあんな状態になったにゃ」
ラグは、だるさを感じたことを思い出した。
「その力を、指定した場所に送り込むにゃ」
「まさか」
「リナにゃ。やつら、リナを、擬似的な勇者を降臨させる器として使うつもりにゃ」
ノワールは言った。




