25 守護者
人影は、ラグたちを遠巻きに見るように、広間側に二人と、地下道側にひとり。
全身鎧の騎士のような外見をしていた。
兜や、肩の鎧の端などに翼のような飾りがついている。暗闇でも純白の鎧であることが想像できた。
じっと立っている。
「いつからいた?」
「さあ……」
クールが首をかしげた。
「どこの者だ」
ラグは言った。
彼らは動かない。
ラグが一歩出たときだった。
彼らが近づいた。
足を動かして前に出たのではなく、一歩分、前にいた。途中がない。
前の姿が消えて、いまそこに出現したような不連続の動きだった。
ボイルが、二人組の一方になにかを投げる。
投げた瞬間、相手もなにか投げてきた。ボイルは体をひねってかわす。
床に落ちたのは小さな木片、のようなものだった。床に落ちると崩れるように消えた。
「同じもん、投げてきたっすね」
ボイルは言った。
「そういう特性だと予想してたのか?」
「うーん。なんとなくっすね」
と言いつつ、刃物ではなく当たっても被害が少ないものを投げたのだから、疑いはそれなりに濃かったのだろう。
ラグはボイルたちの評価をさらに上げた。ただ同時に攻撃面での評価は下げた。これまで、おおむね逃走を意識した行動に感じられたからだ。行動する者の相性としては良いだろう。
ラグが広間側に向かって前に出ると、同距離、騎士も接近した。
もう数歩の距離だ。
急加速し、体当たりをしてみた。
するとまるで自分にぶつかられたように跳ね返された。
床を転がって後退。
騎士はラグとぶつかった位置に残っている。
しっかり動いても、呼吸による体のわずかな揺れ、がない。
「これは俺たち、ということか?」
ラグが言うとボイルはうなずいた。
「多分そっすね」
人数、行動。
どちらも似ている。
ラグが一歩前に出る。
騎士が一歩分前にいた。
一歩さがってみる。
騎士が一歩分前にいた。
「行動に対して同距離動くが、まったく同じ行動を取るわけではないようだな」
一歩分近づくのではなく、一歩分動く。
逃げたら、相手も逃げてくれるというわけではないようだ。
「そもそも、これは戦う相手ではない、と思う」
「どういうことっすか?」
「武器を持った相手と戦うとは言うだろうが、武器と戦うとは言わないだろう。これは、そちらに近いと思う。元を断てば終わる類のものだろう」
「ふえー。すごいっす! さすがっすね」
「まあな」
「で、元ってどこなんすか?」
「知らん」
「……」
「……」
「……」
「だが」
ラグは、さっき床に降りたノワールを見た。
「この猫に助けてもらえそうだ」
「しゃべる猫っすね」
「……いや」
「いやいや、聞こえてるんすよ、さすがに。他の人はごまかせたかもしれないっすけど」
「……。……いや」
「無理にゃ」
ノワールが言うと、おお、とクールが反応した。
「おれ、しゃべる猫に会うのが、夢だったんだ……」
「夢がかなって良かったにゃ?」
「うおお……」
クールが二歩、ノワールに向かって歩いたので、騎士が二歩近づいた。
「止まってろにゃ」
「はい!」
クールがいままでで一番いい声で言った。
「うるさいにゃ」
「はい……。な、名前は……?」
「ノワール」
「いい名前……」
「で、どうするんすか?」
ボイルがたまらず言った。
「ラグ」
ノワールはラグを見た。
「おそらく、この広間に近づいたことが発動条件だ。ある程度離れる必要がある」
「ついてこないってことっすか?」
「いや、俺たちだけが離れる必要があるだろう」
「どうやってっすか?」
「し……、ノワール、押してみてくれ」
ラグが背筋を伸ばして立った。
ノワールは、しぶしぶ、といった足取りでラグの背後までやってくると、ぐいぐいと押す。
騎士は反応しない。
「物体に反応するというのだと、ネズミなどが入り込んだときややこしいことになりかねない。また信者も攻撃対象にしない工夫が必要だ。さらにリナや信者を運び込む場合、本人が動かされている場合、攻撃対象とみなさない、といった条件の設定ができるはず。木片への反応がなかったことなどもある。その中に、自発的な行動、といった要素があるのではないかと思ってな」
ラグは言った。
「まあ、合格、にゃ……。お前、重いにゃ!」
「恐縮です」
「ロープっす」
ボイルがロープを見せたので、ノワールは代わりにボイルを範囲外まで連れ出し、外からラグとクールを引っぱって通路まで出すことで、三人は脱出した。




