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02 子作りお断り

 ラグは男たちと、女性の間をゆっくり移動する。

 男たちは汚れた格好で、短刀で武装している。抜いているのはひとりだけだ。

 女性は二十歳前。ポニーテールの黒い髪が木漏れ日を反射して光った。


 ラグはといえば、獣の皮を使った簡素な服装であり、髪は乱暴にナイフで切っただけだ。

 男たちより明らかに体が大きく、大人と子どものような体格差があった。


「な、なんだお前……」

 男たちは戸惑ったようにラグを見ていた。

 ラグは女性に向き直る。

「どうだろう。子を残さないか」

「お、おい、この女にはおれたちが先に目をつけたんだ!」

 男のひとりが言う。

 ラグは彼を見る。男はすこしひるんで一歩さがる。


「あ、あとから来て横取りしようってのかお前!」

 男は続けた。

 ラグは肩のノワールを見る。

「人間社会は、順番を守る必要がある、ということですか?」

「……そうにゃ!」

 どこか迷いつつ、ノワールは断言した。

「なるほど。では」


 ラグは一礼した。礼をする習慣は知っている。

「失礼する」

「え?」

 男が気の抜けた声を出した。


 ラグが去っていこうとすると女性は手をあげた。

「ちょ、ちょっと待って!」

「なにか?」

「助けて!」

 ラグは眉を寄せた。

 それからひらめく。


「……不同意子作り……!?」

 そういうことか。

「いやそんな言葉は……、と、とにかく助けて!」

「わかった。息の根を止めよう」

 ラグが言うと、男たちは息を飲んだ。


「ラグ。人間は、殺すことを極力避けるにゃ」

「なるほど」

 うなずいたラグは、彼らの腹を順番に殴っていった。

 ラグの動きは素早く、目で追うことが精一杯だった男たちは、ほとんどなにをされたかわからないうちに膝をついていく。

 続けてラグは彼らの持っていたロープで手足を縛り、その場に転がした。


「うむ。そんなもんにゃ」

「あ、ありがとうございます……?」

 女性が、おずおずと言う。


「では、俺と子を残してもらいたい。いまからでかまわないか?」

「無理です!」

「無理?」

 ラグが一歩前に出る。


「あ、無理かなーって……」

 女性はゆっくり後退していく。背中が木の幹にあたってびくりと震えた。


「あのー、無理ですごめんなさい助けて!」

 女性は深く頭を下げた。


「助けて……?」

 ラグは考えた。

 そしてひらめいた。

「繁殖期では、ない……!?」

 繁殖期でなければ子作りはしないだろう。

 助けて、という意味がわからないが、あわてているようだ。言いまちがえだろう。

「人間は特別、繁殖期はないにゃ」

 ノワールが驚くべきことをささやいた。

 では……!?


 そのとき足音が近づく。

「なにをしてる!」

 男性が姿を見せた。斜面を走ってくる足音は、すこし前からラグの耳にも入っていた。

 しかし交渉は自分の番である。問題ない。

 いやたったいま、断られてしまった。重大な問題である。


「エルド!」

 女性は、エルド、と呼ばれた男性に駆け寄った。

「リナ」

 エルド、はリナを背後に隠すように立ち、ラグをにらみつけた。

 剣を抜く。軽装ながら胴と関節を守る防具を身につけている。


「この盗賊め!」

 ラグは、エルドの視線が自分を向いていることに違和感を持った。

「俺は盗賊ではない」

「なにを!」

 そう言ってエルドは、縛られて倒れている男たちに気づいた。


「……?」

「あの人たちに、襲われそうになって」

 リナは言った。


「じゃあそいつは」

「その人は助けてくれたんだけど、その……、変なこと言ってて」

「子作りを依頼していたんだ」

 ラグは言った。

「……は……?」

 エルドはぽかんと口を開けた。


「彼らは不成立になったようだった。だから俺が頼んだところだった」

「脅迫だろうが!」

 エルドが怒鳴る。

 ラグは驚愕に、目を見開いた。


「お前、まだ仲間はいるのか?」

 エルドはまわりを見ながら言った。

「いや……」

「ふん、おとなしくしてろ!」

 エルドは剣の先をラグに向け、リナをかばうようにしながら後退を始めた。

 かばいながらということもあるが、動きは鈍い。

 ラグには、彼が自信を持っていることが謎だった。


「おれたちは帰る。ついてくるなよ!」

 そう言って、エルドは何度も振り返りながらリナと道を下っていった。斜面はカーブしておりすぐ彼らの姿は見えなくなる。だがラグが意識を集中すると、足音は聞こえていた。

 何度も振り返って、ラグたちの様子を確認しているようだ。

 ラグは聴覚に集中した。


「リナ、なんなんだあいつは」

「全然意味わかんなくてこわい! 助けてくれたのが、逆にこわい!」

「あいつ、言葉の意味わかってんのか? 人間だよな?」

「知らないよ! おとなしく従ってるのもこわい!」

「とにかく急ごう」

 そういった会話のあと、足音は早くなり、遠くなっていった。


「師匠、断られてしまったのですが」

「動物も断られることがあるにゃ」

 言われて、ラグは動物たちのことを思い返した。たしかに、ラグから見て、体の大きな個体の方が優秀ではないか、と思うときでも選ばれないケースがあるなど、予想もつかない選択基準があった。


「なるほど。深いお考えです」

「わかればいいにゃ。気にするにゃ、人間は街にたくさんいるにゃ!」

「では、街へ参りましょう」

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