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17 絡め取る

 エルドは書類を整理した。

 終わって持っていくと怒鳴られ、別の書類を整理した。

 終わって報告すると怒鳴られ、別の書類を整理した。

 終わって確認を取ると怒鳴られ、別の書類を整理した。

 毎日そうしていた。


 お前たちもやれよ。

 口にしてしまいそうな言葉を飲み込む。バカみたいに耳が良い団員もいる。

 五感の鋭さでは勝てない。

 筋肉の強さでは勝てない。

 カンの鋭さでは勝てない。


 エルドは、書庫で書類を落とした。

 落ちた書類が床で広がるのを見て、急いで拾って整えなければ、と思ったが急に力が抜けた。

 こんなものをなぜ自分が急いで拾って整えなければならないのか。

 黙って床の書類を見ていた。

 そうしていると廊下の声が聞こえた。ラグ、という名前が聞こえる。

 リナという声も聞こえた。

 ラグが光導院から、倒れたリナを連れてきた、という話だった。


「変な部屋で倒れて、光導院側がそれをもみ消そうとしたから、連れて帰ってきたっていう話だ」

「光導院でそんなことあるのか?」

「わからん。だがラグだぞ?」

「よくわからんウソを言いそうな感じではないな」

「だろう?」


 声は遠ざかっていった。


「ざけやがって」

 エルドはつぶやいた。

 ウソを言いそうにない?

 誰がウソをついて、誰がウソをつかないか、わかるっていうのか。

 仕事もしないお前らが!


「お前たちに! なにが!」

 エルドは声を抑えた。

 なぜ抑えなければならないのか。あんなやつら相手に。

 それに。

 なぜリナはあんなやつと一緒にいるのか。

 あんなの、山から出てきた山男じゃないか。まともな生活なんてできないに決まってる。

 リナの、世話を焼くところをうまく利用して。

 くそ、くそ、くそ!


「どうかしましたか?」

 急に声がしてエルドは息が止まりそうになった。

 白装束の男が戸口にいた。


「い、いえ、別に、なにも……」

「いやあ、わたしは憂鬱ですよ」

 男は首を振った。


「いまそこで、わけのわからない話を聞きましてね。光導院が、女性を閉じ込めただとか、なんとか。しかも粗野な男がその危機を助けて、英雄気取りだとか」

「……ひどいですね」

「そう! ひどいんですよ。言いたい放題! 噂なんて、流れてしまえば事実のようになってしまう! ウソの評判なんて許せないですよ」

「はい」

 エルドはうなずいた。


「わかってもらえます? いやあ、さすがエルドさん。ただの瞑想室でそんなことが起きるはずがないのに」

「瞑想室?」

「実はリナさんには、精神的に不安定なところがあって、それをメリダ様が気に病んでおりましてねえ。瞑想室で心を整えて、とお考えだったのを、なにをどう考えたのか、あの乱暴者が勝手に連れ出して、おかしな話を。これが広まったら、ああ、リナさんにとってもメリダ様にとっても、やっかいなことになります」

 白装束の男は首を振った。


「……リナは幼くして親を亡くしている」

「そうでしたか! ああ、それはおかわいそうに……」

 白装束の男は大げさに首を振った。


「……僕が、僕がリナを連れ出そうか」

「え?」

「リナのためになることなら、僕はなんでもする」

 あの乱暴者とは違う。

 自分のためではない。リナのために。


「それはすばらしい。お願いできますか?」

「はい」

「やはり、エルドさんは話がわかる! 他の団員とは違いますな」

「そんな」

 そうだ。

 他の団員とは違う。

 腕力に取りつかれたバカどもとは。


「そうだ。では、エルドさんにも、面接室に来ていただきましょうか」

「僕も?」

「ええ! あなたの秘められた力をしっかりと引き出すことができるかもしれません」

「僕の、秘められた力……」

「ええ!」

 白装束の男が手を出す。

 エルドはその手を取った。

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