14 お手伝い
「ちょっと、荷物の仕分けのお手伝いをしてほしいの。いいかしら?」
メリダは首をかしげるようにして言った。
ノワールがラグの首をつっついた。
「では俺も」
ラグが一歩前に出る。
メリダは照れたように笑った。
「あの、男の人はちょっと……」
「ん?」
「ラグ。女っていうのは、男の人には見られたくないものもあるの。覚えてね」
リナがぽんぽん、とラグの肩をたたいた。
「具体的にはどんなものだ?」
「具体的に言いたくないから見せられないんでしょ!」
リナとメリダが笑う。
「おもしろい方」
「ですよね!」
「では、俺は警備団に行ってみる。あの話を聞きたい」
「……警備団?」
メリダがラグを見た。
「はい。ラグは街に来たばかりで、身元を証明するものが欲しかったので、警備団に入ったんです」
「そう。ラグさんとおっしゃるのね?」
メリダはにっこり笑った。
「こっちよ」
メリダに案内され、リナは光導院の建物に入った。
入ってすぐのホールは天井が高く、吹き抜けになっている。光が差し込みまぶしいほどだ。
そのまま進めば聖堂だ。たくさんならんだ椅子と祭壇がある。
リナたちは横に階段を上がった。
二階の廊下を進み、メリダはドアを開けて中へ招いた。
入っていくと、いくつかの箱があるものの、中はほとんど物はなくすっきりとした印象を与える。窓はないが不思議に明るい。
じゅうたんはふかふかで、足音が一切しない。
「土足でだいじょうぶですか?」
リナがちょっと足を浮かせると、メリダは微笑んだ。
「もちろん。この部屋は初めてだったかしら?」
「はい。……なにか書いてあります?」
リナは壁を見た。
するとメリダの目がすこし開き、青い瞳がリナをとらえた。光をすべて飲み込むような暗い色だった。
すぐほとんど開いていない薄目にもどってしまう。
「目がいいのねえ! そう、おまじないが書いてあるの。魔除けといってもいいかしら」
「荷物の魔除けですか?」
「そんなものね」
気づくとドアが閉じていた。
重そうなドアだ。
リナは香りを感じた。花の香り。いや花ではない。いや? リナは混乱してきた。
「あれ」
じゅうたんが近い。
いや、リナが膝をついていた。
立ち上がろうとしたが、ゆっくり視界が回転している。リナは手をついた。
「どうしたの?」
メリダの声が遠く感じた。
見えているものははっきりしているが、感覚がどこかはっきりしない。
それでいて、自宅でくつろいでいるような安心感に包まれていた。
「私……」
「ここにいるのは素敵でしょう?」
遠くで声がする。
誰の声だったか。リナは、はっきりわからなかった。
「ここって、どこ……?」
なにをしていたんだっけ。
私は……。
「まだ意識があるの? リナちゃん、あなたはとてもいいわ……」
光が、光がやってくる。
勝手に、意識をぬ散るぶすどうな光あ。
ラグが警備団に立ち寄ると、入口近くにいた団員が手を降っていた。
「よう! 正式に入る気になったか?」
「いや。昨日捕まえた誘拐犯がどんな話をしたのかと思って来たんだが」
「ああ……」
団員の声のトーンが下がった。
「あれはだめだな。なんにもしゃべらねえ」
「四人ともか?」
「ああ」
「しゃべらせる方法はないのか?」
「なくはないだろうが。そろいの首飾りで、同じ服装。背格好まで似てやがる。あれはなんかの集団だな」
「集団?」
「わけのわかんねえことを信じて、やってる集団があんのよ」
ラグは考えた。
「誰もが、なにかを信じているのでは?」
「自分たちが信じてるから、誰かをさらってもいいて思ってるやつらとは、うまくやってけねえだろ」
それは端的に警備団の立ち位置を示していると感じた。
「大勢の利益のためにやっているんだな」
「警備団だからな」
「じゃあ、なにも収穫はなかったのか」
「光がどうとか」
「光」
「おれたちは、光を阻む、じゃま者なんだってさ」
警備団の男は、肩をすくめた。
警備団を出て歩きながらラグは考えていた。
「どう思うにゃ?」
「よくわかりませんね。ああいうのは人間社会によくいるんですか?」
「人間に限らないにゃ」
「魔族でもですか?」
「そうにゃ。そっちが多数派になると、いろいろ大変にゃ」
店に到着すると、店主がひとりで客をさばいていた。
「もどりました」
「おう、リナはまだか!」
店主が威勢よく言った。
「いえ、別行動ですが」
「じゃあ兄ちゃんちょっと手伝ってくれや! いまよお、」
ぱぱぱっ、と光導院での様子がラグの頭の中に浮かんだ。
そしてリナはまだ帰ってきていない。
「……リナの様子を見に行きます」
「おい! おい兄ちゃん! おい!」
かがんだラグは、脚に力を集中する。
いろいろな建物を無視して、光導院へと跳んだ。