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12/19

12 手

 ラグが荷車を引く音が低く響いていた。

 リナはミソン少年の肩を支えながらついてきた。少年はまだ震えている。二人ともまだ、闇の中から現れる黒いローブ姿を想像して体をこわばらせていた。


 やがて詰所の明かりが見えてくるとリナが歩調を早めた。ラグも合わせる。


「誰だ!」

 警備団員たちが駆け寄ってきたが、ラグと、荷車の上の黒ローブたちを見るなり顔色を変えた。


「ラグだがわかるだろうか」

「もちろん! どうした」

「詳しくは中で話したい」

 団員はリナたちを気遣いつつ中に導いた。


 ラグは裏口から、荷車ごと詰所に入ると二階から、副団長のダグラスと呼ばれる男が現れた。立派な体格の中年男だったが、ラグの話を聞くうちに眉間にしわを寄せた。


「こいつらが誘拐犯……」

 ダグラスは団員に指示し、男たちを縛り直させた。手首は後ろでしっかり、足は、自分でちょこちょこと歩ける程度の歩幅を作らせる。そして目隠しをした。

 ノワールがラグの首をちょんちょん、とさわる。


「ああ、それと、全員同じ首飾りをつけているようだ」

「首飾り?」

 ダグラスが近くの誘拐犯に手を伸ばすと、体をすこしねじって抵抗したが、低い声で一喝するとまっすぐに立った。


「これか」

 全員同じ、広げた手のひらのデザインだ。


「光導院は、小指を立ててるものだったにゃ」

 ノワールの言葉を、ラグが伝える。


「たしかに。これは……、つまり、光導院と逆のことを示しているのか?」

 ダグラスは腕組みをした。


「光導院をおとしめようという集団かもしれん。とにかく牢に入れて尋問をし、すこしでも情報を得る。それとラグ。この件は周囲には黙っておいてくれ」

「なぜだ?」

 ラグは言った。

「光導院は、街の人間の心の支えになっているところもある。特に恵まれない人間のな。それが恨まれているとなれば、いらぬ動揺を招くことになる。まだ不確かなことばかりだ」

「わかりました」

 ラグはうなずいた。


「保護した少年は、親のところに連絡をし、今日はここで泊まってもらう。襲われる可能性は低いと思うが、念のためだ」

「リナも残っておいてもらいますか?」

「……そうだな。ラグもいるとはいえ、そのほうが安全だろう」


 ラグはあいさつをして、警備団の建物を出た。


 暗い道を歩く。

 ラグは聴覚に集中した。足音は聞こえない。


「ラグ、どう思うにゃ?」

「犯人は捕まりました。ただ……」


 ラグは、山で見かけた虫を思い出していた。

 組織で活動していたその虫は、エサを取りに行く係、巣で養育を行う係、外敵と戦う係、巣の管理をする係、ボス、としっかり分かれて行動していた。


「彼らがなにかをするために考えて行動していた、というより、行動をするための係、のように感じました」

「うむ。わしもそう思うにゃ」

「ということはどういうことですか?」

「知らんにゃ」

 ノワールはしっぽを揺らしていた。


「警備団もそれくらい考えるだろうにゃ。知ってることも、わしらより警備団のほうが多いだろうし、あとはおまかせにゃ」

「そうですね」

「ま、しかし、ラグ。お前はなにかに足を突っ込んだという自覚を持つことにゃ」

「計画を妨害した、敵、ということですか?」

「恨みを買ったということですか?」

「かもしれんにゃ。だから、リナを置いてきたのは正解にゃ」


 静かな夜道。

 ラグはふと空を見上げた。

 雲の切れ間から、わずかに星が瞬いている。


 不意に視線を感じてラグは立ち止まった。

 感覚を研ぎ澄ます。

 しかしわからない。

「どうかしたかにゃ?」

「気のせいでした」

 ラグは言って歩きだしたが、リナの家にたどり着くまで、感覚は研ぎ澄ましたままだった。

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