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10話



「そうですか、分かりました。ですが娘はまだ大学生、くれぐれも節度を保った交際をお願いしますよ…?」


眼光を鋭くした父にカイの顔が一瞬固まった。遠回しに妊娠させるなよ、と言われ美夜は恥ずかしくて俯く。今この瞬間だけは父がカイより優位に立っていた。


「お前もそれでいいな?」


「勿論!反対する理由なんてありませんわ!」


同意を求められた母は水を得た魚のように生き生きとし出す。母は明らかに喜色を露わにしている。娘が玉の輿に乗る、と興奮しているのだ。和樹の時とあまり変わらない反応に肩を竦めた。


美夜の心には両親、特に母に対する失望が未だに残っている。問題が解消したとはいえ、簡単に蟠りは消えない。そんな状態で両親と共に生活することに憂鬱な気分になっていると。


「ありがとうございます…それで、不躾なお願いなのですが暫く美夜さんと同居させていただきたいのです」


とんでもない発言にこの場にいた全員が面を食らう。当然美夜も(同居⁈何それ聞いてない⁉︎)と混乱の境地にいる。


「それは何故?」


「和樹さんが美夜さんを逆恨みして接触してくる可能性があり、ほとぼりが冷めるまで私のマンションにいた方が安全だと思ったからです。セキュリティもしっかりしてますし」


「確かに、こんなことをする人ですからね…彼は過去にも何度かうちに来たことがありますし。その方が安全でしょうか…」


父は考え込みつつもカイの提案に乗り気だ。美夜も和樹のことが気がかりではあったし、不安の種でもあった。自宅よりカイのマンションの方が断然安全であるのは実際に足を運んだ美夜にはよく分かる。


「…ご迷惑をおかけしますが娘をよろしくお願いします」


「ご安心ください、美夜さんは必ず守ります…実は同居を提案した理由はもう一つありまして…」


するとカイが急に冷ややかに目を細めた。美夜を含めた全員に緊張が走り、顔が強張った。


「私はお2人に少々憤りを感じているのですよ?一度は美夜さんの意思より青山家と縁戚関係になることで得られる利益を優先した…彼女がどれほど追い詰められたか理解してますか?これは完全なお節介なのですが、美夜さんは気持ちを整理するためにお2人と距離を置いた方が良いと思ったんです。美夜」


突然こちらを向いた。両親を責めている冷たい声音と全く違い美夜の名を呼ぶ声が酷く甘く、状況も忘れて頬が緩みそうになる。


「美夜はどうしたい…?言いたいことがあるなら言ったほうがいい」


美夜は膝の上に置いた手をギュッと握りしめて、両親を見据えた。自分の手の上に一回り大きい手が重ねられる。それだけで勇気づけられる、1人じゃないと。


「…私ずっと和樹くんに酷いこと言われてるって伝えてたのに、お母さんは全く取り合ってくれなかった。お父さんも私と和樹くんの仲が悪くなると都合が悪いからって見て見ぬ振りしてたよね…お父さんのために私が我慢すればいいんだって耐えてた。和樹くんには何をしても否定されて、お前みたいなやつは何も出来ない、取り柄もないどうしようもない奴って言われ続けて心はずっとすり減ってた。婚約しろって言われた時一度心が壊れかけたよ、カイさんが居なかったらどうなってたか分からない」


一気に話したので息切れを起こす。呼吸を整えた後、続ける。


「正直お父さん達に対する信頼は無くなりかけてるし未だに怒ってる…だから少しの間距離を置きたいです、お願いします」


美夜は頭を下げる。横でカイも頭を下げたのが分かった。下げる直前、2人とも酷くショックを受けていた。娘に信頼してない、と言われれば無理もない。けど言わなければならなかった。


やがて顔を上げると、2人は後悔に満ちた表情をしていた。唇を震わせ、何かを考え込んでいる。


暫くすると、父は「…今まですまなかった」と告げた。母は何も言わなかったが、美夜は何とも思わなかった。

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