追放会議
その日の夜、パーティーは拠点となる古い城の一室に集まっていた。部屋は暗く、重々しい空気が漂っている。全員が疲れ切っており、沈黙の中で互いの顔を見合わせている。
「さて、どうするか……」リアムが口を開いた。「今日の出来事を考えれば、このままアレンをパーティーに置いておくのは危険すぎる。」
ガレスがリアムに同意するように頷く。「俺もそう思う。アレンの力はあまりにも不安定だ。次にまた暴走したら、俺たち全員が危険にさらされるかもしれない。」
マリアは眉をひそめながら反論した。「でも、アレンの力は今までにも何度も私たちを助けてきたわ。彼がいなければ、この前の任務も成功していなかったはず。」
「それでもだ!」リアムは強い口調で言い返した。「今回は彼のせいで多くの仲間が傷ついた。彼の力がどれほど危険か、俺たちは今日目の当たりにしたじゃないか!」
部屋の中に再び重苦しい沈黙が訪れる。誰もが言葉を探しながら、リアムとマリアの間で揺れている。アレンは部屋の隅に座り、うつむいたままだった。
「僕を……追放するつもりなら、そうすればいい」アレンがつぶやくように言った。「僕も自分の力を完全には信じられない。でも、君たちを守るために戦ったことだけは事実だ。」
リアムはアレンの言葉に一瞬躊躇するが、すぐに首を横に振った。「お前の気持ちは分かる。だが、俺たちにはお前を信じ続ける余裕がない。均衡を守るためには、お前をここから離すしかない。」
ガレスが口を挟む。「それに、アレンの力が本当に危険なら、ここに置いておくよりも、別の場所で制御する方法を見つけるべきかもしれない。彼を追放しても、彼自身のためになるかもしれない。」
マリアはため息をつき、リアムに問いかけるような目で見つめた。「本当にそれが最善の選択だと思うの?」
リアムは一瞬目を閉じ、深く息を吐いた。「これが……俺たちにとっても、アレンにとっても最善の選択だと思っている。均衡を守るためには、この決断が必要だ。」
アレンはゆっくりと立ち上がり、リアムに向かって静かに頭を下げた。「分かった。僕は君たちの決断を受け入れる。」
リアムはアレンの目を見つめ、その覚悟を感じ取った。だが、その決断が本当に正しいのか、胸の奥で小さな疑念が芽生え始めていた。
「では、これで決まりだ。アレン、明日の朝、お前をここから送り出す準備をしよう。」
翌朝、薄明かりの差し込む城の中庭に、一同は集まっていた。空は重く曇り、風は冷たく肌を刺すようだ。リアムは中庭の中央で立ち尽くし、静かにアレンの姿を見つめていた。
アレンは旅の装備を整え、少し疲れた表情を浮かべている。その姿は決して屈しているわけではなく、むしろ何かを受け入れるような静かな強さを感じさせた。
「これで……いいんだな?」ガレスが不安そうにリアムに尋ねる。
リアムはゆっくりと頷いた。「ああ……これが最善の選択だと思う。俺たちは均衡を守るためにここにいる。そして、アレンもまた、自分自身の道を見つけるべきだ。」
マリアが一歩前に出て、アレンの手をそっと取った。「アレン、本当にこれでいいの? あなたにはまだ……。」
アレンは微笑み、マリアの言葉を遮るように首を振った。「ありがとう、マリア。でも僕は大丈夫だよ。僕には僕のやるべきことがある……それが何であれ。」
その時、リアムはアレンの目を見つめながら、胸の中で何かが軋むような音を感じた。彼の決断に対する確信は揺らいでいる。だが、彼はその揺れを押し殺すように深く息を吐き、前に一歩進み出た。
「アレン、俺たちはお前を追放するが、これはお前の命を奪うためではない。むしろ、お前が自分自身の力と向き合い、それを制御できるようになるための時間と空間を与えるためだ。」
アレンは一瞬、驚いたようにリアムを見つめたが、すぐにその言葉の意味を理解したように頷いた。「分かっている。君たちが僕を信じられないのも無理はない。僕自身だって、自分の力が恐ろしい……。」
リアムはその言葉に微かな動揺を感じつつも、堅い声で続けた。「俺たちが選んだ道が間違いでないことを証明してくれ、アレン。お前が無事に戻ってくることを祈っている。」
アレンはリアムに一礼し、静かに言った。「ありがとう、リアム。僕も自分の道を見つけるつもりだ。もし、僕が再び君たちの前に現れる時が来たら、その時はもう少し成長しているはずだ。」
ガレスが目を伏せながら言葉を続けた。「気をつけろよ、アレン。外の世界はここよりもずっと厳しい。だが、お前ならきっとやれるさ。」
アレンは静かに微笑み、「ありがとう、みんな。僕は行くよ……」と言い残し、ゆっくりと城門に向かって歩き始めた。
リアムはその背中を見送りながら、胸の奥で再び強い疑念が芽生えるのを感じた。「本当にこれでいいのか……?」自問自答する心の声が、彼を強く揺さぶる。
アレンの背中が城門の向こうに消えるまで、誰も何も言わなかった。ただ、冷たい風が吹き抜け、重苦しい沈黙だけがその場を支配していた。
その夜、リアムは眠れぬままに部屋を歩き回っていた。窓の外には暗い夜空が広がり、雲間からかすかに星の光が見える。リアムは手を窓枠に置き、深い溜め息をついた。
「俺は……本当に正しいことをしたのだろうか……?」
彼の心には、アレンを追放したことへの後悔と、自らの信念への疑念が絡み合っている。リアムは祖父の言葉を思い出した。「均衡を守ることは、時に仲間を切り捨てることだ。それが、正義というものだ。」
だが、その言葉が今のリアムには重く響く。彼は祖父の教えに従ったつもりだったが、果たしてその教えが正しかったのか――それが彼の胸中を支配している。
「均衡を守る……そのために、アレンを追放した……それが本当に正しかったのか……」
彼は窓を開け、冷たい夜風を浴びた。外の闇の中に、彼の心もまた迷子になっているように感じた。彼の決断がもたらした未来に、光はあるのだろうか。
「アレン……お前がどこかで無事でいてくれればいいのだが……」
リアムはそうつぶやきながら、星の光をじっと見つめ続けていた。