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38ー1話 宗像倫子 ――信用の上に――

 一旦、東京に引き上げた倫子は、再び天鳥船調査団に戻った。ジングウの活動が活発化したため、天鳥船から燃料を抜き取るのが最大の安全対策だと判断されたからだ。


 本部では、科学者たちがジングウの動画を食い入るように見ていた。彼女が指定する集合日まで、あと3日に迫っていた。


「フォロワーが3億ですって。何もかも悪い方向に事は進んでいますね」


 ジングウが受け入れられるということは、社会が不安定化するということだ。


「宗像博士、戻ってくれたのですね。ありがたい」


 倫子は握手を求めてきた糀谷博士の手を握った。


「で、作業手順は決まっているのですか?」


「それはまだ……。その計画と技術支援を博士にお願いしたい」


 影村が言った。


「私は便利屋ですか……」


 ため息が漏れた。


「そう言わないでほしい。博士にしかできないことです。国家のためだと思って、頼みます」


「国家のためって、違和感があるなぁ。それに私にも出来ないことがありますよ」


「核廃棄物容器の開発は順調に進んでいると聞いています」


「人間の作った核と、エイリアンの核とが同じでしょうか?」


 倫子は、あえてエイリアンと言う言葉を使った。その認識無くして、天鳥船に関わることはできないと考えていたからだ。しかし、その意図は、影村には伝わらなかった。


「アトランティス人なら、宇宙人ではありませんよ」


 影村は澄ました顔で倫子をいなした。


「それでは住吉比呂彦と此花姫香をここに呼んでもらえますか」


 倫子の言葉に影村は頭を振った。


「それは認められません。何分彼が、敵か味方かわからない。万が一にも、彼がATFに致命的なダメージを与えることがあったら……。是非に、博士の力で解決してほしい」


「まだ、そんなことを言っているのですか……」あきれてものが言えない。「……さて、どうしたものでしょうね」


 倫子は腕を組んだ。比呂彦がいるなら動力部にアクセスするのも楽だろうが、単独では、とても簡単に引き受けられる要請ではない。


「国家機関で働く博士に選択の余地は無いと思うのですが」


「上から目線なんだなぁ。そういうの、嫌いだわ。私なら仕事を辞めてもいいのよ」


「どうしたら依頼を受けてもらえますか?」


「未知の物体に利用されている核を処分するのは骨の折れる仕事よ。その未知のものに対して、影村さんが決定権を持っている。あなたの立場もわかるけれど、私には助手を選ぶ権限もない」


 不平を言う倫子を、影村が説得しようとしていた。


「他の人物ならともかく、あの学生には関わらせたくないのですよ。彼の正義感は、これから手に入れなければならない技術を消し去ってしまうかもしれない。信用できないのですよ」


「何故です。影村さんの依頼で、2度もセキュリティーを切ったでしょう?」


「彼らは劣化ウランの再利用の反対デモに参加した前歴がある。そして、我々の活動を妨害している仲間もいるのです」


「デモのことは聞いているけど、仲間って、まさか?」


 思い浮かんだのはアインシュタイン博士の顔だった。


 影村に眼を向けると、その男はそ知らぬふりで遠くを見ていた。


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