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32-2話

 地図上の赤い点は、恐れを知らず青い点の内部に飛び込んでいく。近接戦闘を繰り返しながら徐々に南下していた。


「36班戦闘不能、25班全滅、24班全滅……」


『距離を取れ、同士討ちになっているぞ!』


 そうした声はいくつか届いたが、それでも同士討ちはなくならなかった。隊員は目の前にジングウが現れるとトリガーをひいた。が、その時にジングウは、大概の場合樹木の陰に飛び去っている。放たれた弾丸は、隣を移動している班を、あるいは、同じ班の仲間を撃ち抜いていた。


『頂上に放射線源を発見。空き缶です。中に放射性物質が入っていると思われる』


 それは1班の班長からの報告だった。


『被ばくに注意して回収しろ』


 中隊長の命令が聞こえた。


 核を持ち出したのか?……そんなことを考えながら、1班の班長のカメラが映す映像に目をやった。


 どこにでもありそうな空き缶が映っていた。中には液体が半分ほど……。小さな泡が湧いているのはサイダーのようだ。


 隊員の手が缶の淵を掴み、ヒョイと持ち上げた。刹那……。


 ――ドーン……、爆発音とともに1班6名が全滅した。


「仕掛け爆弾だ」


 声を上げた真崎2佐が、黒く変わったモニターの前で呆然と立ちすくんでいる。


 殺してやる!……高島は独断で方針を変えた。すくさま、ジングウを破壊する命令を発した。


「政府の命令に逆らうのですか?」


 真崎2佐が異を唱えたが、受け入れなかった。


「私が責任を取る」


 高島は、再度、ジングウを破壊してでも止めろと命じた。


 その後も、ジングウの姿は時折カメラに映った。使用する武器は相変わらず剣ばかり……。


「何故だ。何故、あれほどできる……」


 その時、人形という認識はなかった。ジングウの姿、動き、どう見ても阿修羅だ。


「20班戦闘不能、19班戦闘不能、18班全滅……」


「このままでは大隊が全滅します」


 耳元で真崎2佐の声がした。


「敵はたったひとりだぞ。しかも、武器は剣だ。おめおめと引き下がれるか!」


 高島は1班6名という小部隊の編成から、中隊単位の戦闘行動に移るよう命令を変えた。それによって隊と隊の間に大きな隙間ができてジングウを取り逃がす可能性が高くなるが、当面は上空のドローンから位置は補足できる。数十、数百単位で攻撃すれば、さすがのジングウも銃弾から逃れることはできないだろう。


 部隊が移動して集結する間にいくつかの班が全滅したが、終結が終わるとジングウの攻撃はぴたりと止んだ。


「集まったところをミサイル攻撃されることは……」


 加藤1尉が独り言を言った。


「加藤、嫌なことを言ってくれるな……」


 彼の推測を否定する根拠も自信もなかった。


 ジングウと陸上自衛隊の戦闘は4時間にも及んだ。自衛隊が中隊ごとの集団陣形を取ると被害は減った。じわりじわりとジングウに迫ると、激しく移動していたジングウの赤い光点が雌岳を少し降りた辺りで突然消えた。


「あの辺りに何がある?」


 そこに川や池がないのは地図でわかる。何らかの遮蔽物の下に隠れたと推測した。


「岩屋がある場所です。昔の石窟寺院跡です」


「Jのやつ、そこに隠れたのだろう」


 高島は岩屋の包囲を命じ、動ける隊員は皆、そこへ急行した。


 岩屋はそれほど大きな遺跡ではない。穿うがたれた岩穴も深くはない。部隊は20分ほどかけて包囲網を縮めて岩屋を覗いた。しかし、そこにジングウの姿はなかった。


 その戦闘で自衛隊は30名を超える死者を出し、負傷者はその数倍に及んだ。問題はそれだけではなかった。多くの重火器と隊員の戦闘服や装備品がなくなっていた。それらはジングウが持ち去ったと推認されたが、いつ、どのように、そしてどこへ持ち去られたのか、説明できる者はなかった。


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