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29-3話

 翌朝、驚くべき情報が入った。


「爆薬と誘導弾を盗まれただと?」


 深夜、八尾市の駐屯地から大量の銃器と弾薬、携帯型の誘導ミサイルや爆薬が奪われたという。警備にあたっていた2名の歩哨は首の骨を折られ、弾薬庫の分厚い壁には人ひとりがやっと通れるほどの穴が開いていたらしい。


 しかし、奪った装備品を運び出したような車やヘリコプターが基地内に入った痕跡はなかった。奪われた武器弾薬の量を考えれば、単独でできることとは思えなかったが、歩哨が殺害された手口から、犯人はジングウだということになった。


「行動範囲の広さは予想外です」


 加藤1尉の言葉には慰められた。が、駐屯地を襲われたのは、ジングウを見失った対策本部にも責任があるのは間違いない。


「クソッ……。どうして奴が、駐屯地や誘導弾のことなどを知っている? どうやってドローンの監視から逃れた?」


 高島は身近にあった金属製のくず籠を蹴った。それは紙くずをまき散らしながらカラカラいった。


「捜索範囲を近畿全域に広げる」


 そう宣言し、ヘリコプターの出動を決めた。ドローンに乗せる放射線カメラがなかったからだ。


「奪ったミサイルを何に使うつもりでしょう?」


 誘導ミサイルの前には、ヘリコプターは格好の的だ。加藤1尉は、質問の形式でヘリコプター使用のリスクを指摘しているようだ。それがわかっても、高島は方針を変えなかった。今は、ジングウを発見することが先決だ。高い確率で、あれは動く原子炉なのだから……。


 翌日、まだ日が昇る前のこと。天鳥船内で小さな爆発が起きた。その音や閃光が外部に洩れることは無かったが、天鳥船内に設置されていたセンサーのいくつかが壊れ、いくつかが爆発の衝撃を捕えていた。放射線レベルが以前より上がっていた。


「当直は何をやっていた!」


 報告を受けた高島は2階の宿泊所から駆け下り、感情のままに声を上げた。


 天鳥船の周囲には、常時30名の隊員が見張りに立っている。それ以外にも電子機器による警備システムもある。深夜でも簡単に内部に侵入できるはずがなかった。


「申し訳ありません!」


 高島に替わって本部の席を温めていた真崎2佐が直立不動の姿勢を取って詫びた。


 ソファーで仮眠していた加藤1尉がもぞもぞと起きだしてモニターに目をやった。


「侵入対策用のセンサーは反応していないようです。あの塀に触れて上ったなら、必ず反応するはずですが」


「するとなんだ。Jが地面からわいたか、空から降って来たとでもいうのか?」


「内部での事故の可能性も排除できないと考えますが、判断しかねます」


 加藤1尉はそれだけ言って口を閉じた。


「Jが自分の根拠地を爆破するとは思えないが……。現在の様子は?」


「内部、完全に静まっています」


 当直の担当尉官が報告した。


「それならもう少し経過を見よう」


 高島は計器の前に掛けて手足を伸ばした。突然起こされたため、頭の中は薄い雲が覆っている感覚だ。


「1佐、あれを……」


 真崎2佐が天鳥船を外部から映しているモニターを指した。昨夜まで開いていた後円部の穴がふさがっている。


「ATFが動いている……」


 それは、ジングウが内部に入って何らかの操作をしたということだ。頭の隅には比呂彦がそれをした可能性も残していた。


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