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29-2話

『J発見』


 山の辺の道で警戒していた部隊から連絡が入り、天鳥船調査本部のスタッフも息をのんだ。


「通行人がいなければ確保しろ。Jは武器を所持している油断するな」


 高島は命じた。


『異常な速さです』


「人間だと思うな」


『東方の山地に逃走、ロスト』


 報告があると、本部ではため息や舌打ちが広がった。が、すぐに別の部隊から発見の報告があった。ジングウの頭上には常にドローンがあって、位置そのものを見失うことはなかった。


「袋の鼠だ」


 高島はモニターの地図上に点滅する光点に目をやりほくそ笑む。


 そんな高島に向かって加藤1尉が疑問を言った。


「どうしてジングウは逃げてばかりいるのでしょう。ATF内での戦闘状況を見るに、短期戦を好む積極的なタイプだと感じたのですが」


「ふむ、……こちらの兵力を見て、さすがに怖気づいているのではないかな。その辺りの計算はできるのだろう」


「だとしたら、当方の兵の体力消耗を狙っているのではないでしょうか? あるいは隙ができるのをしたたかに待っているのでは?」


「人形だということだからな。体力は無尽蔵……。いや、人形だからこそ、エネルギーの限界があるのではないか? ジングウの動力源についてあの男……、いや神野という案内人に問い合わせろ」


「了解」


 加藤1尉が電話に飛びついた。


 その直後だった。ジングウが足を止めたかと思うと、一瞬、発光するのが映った。そして映像が途絶えた。


『ドローンが撃墜されました』


 不慣れな自動小銃で飛んでいるドローンを撃ち落としたというのか?……ジングウの能力に舌を巻いた。


「すぐにバックアップを回せ。近づきすぎないよう、注意しろ」


『了解』


 高島は光点の消えた地図を睨んだ。……ジングウのやつ、どこへ行くつもりだ。


 探索用のドローンが1機減り、6機のドローンが投入された。ジングウを見失った場所を中心にそれは飛んだ。しかし、数時間たっても所在はつかめなかった。


『捜索範囲を広げますか?』


 オペレーターからの打診に高島は決断しかねていた。比呂彦によれば、ジングウは戦略、戦術に優れているという。それならば、天鳥船から無闇に離れることはないだろう。あれはジングウのホームなのだから。どこかに潜んで作戦を検討している、と考えた方が自然だ。その一方で、状況がつかめない場所から離れ、まず、安全を図ることも戦略としてはありうることだ。


「天鳥船がJのベースだ。遠ざかるとは考えにくい。天理、桜井周辺を重点的に捜索せよ」


 それが高島の出した結論だった。


 神野からの返事はすぐに届いた。ジングウのエネルギー源はハイブリッドだという。一つは人間同様の食物エネルギーで、もう一つは核エネルギー。彼は自分には上手く説明できないと付け加えることも忘れなかった。


「核エネルギー?」


 体内に原子炉があるということか?……高島は同じ建物の2階に駆け上がり、糀谷博士と宗像博士を捕まえて、ジングウが核エネルギーで動いている可能性を問い質した。


「なるほど……」糀谷博士はうなずき、エックス線カメラがジングウの体内を映さなかった時のことを例に挙げた。「……あれは、見られないようにしているのではなく、内部の放射線が外部に漏れだすことを防ぐための措置なのかもしれないな。正に、内部に原子炉を積んでいるという証左だろう」


 彼はひどく感心し、高島を苛立たせた。


「原子炉があんな小さな身体に収まるものですか?」


「核分裂炉ではなく、核融合炉なら……」


 宗像博士が原子炉を小さくできる可能性についてあれこれ述べた。同時に、核エネルギーを熱エネルギーに変換してから使用する限り、人間サイズにすることは難しいだろうとも。


 科学者たちの説明を、高島は全く理解できなかった。


「万が一、ジングウを傷つけた場合の被害はどの程度になりますか?」


「さあ……」


 2人の科学者が顔を見合わせた。どんな核物質が使われているかわからない以上、具体的には答えられないというのが、2人の答えだった。


「いずれにしても、傷つけずに確保すべきだと思いますよ」


 糀谷博士がそう締めくくった。


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