28-2話
「総理官邸周囲に陸上自衛隊、一個大隊を配置しましょう。ラブドールのひとつやふたつ、簡単に排除してご覧に見せます」
防衛大臣が申し出る。
彼の発言を聞いたら、ジングウと悪戦苦闘している隊員たちはどう思うだろう?……結城は冷ややかに観察した。
「そうだな。そうしてくれたまえ。しかし根本君、君だって狙われるかもしれないよ。自衛隊の大将みたいなものだからね」
「ま、まさか……」彼が顔を蒼くした。「……私の家にも一個中隊置かせてもらおう」
「私の事務所にもお願いしたい」
外務大臣が、総務大臣が、……次々と自衛隊による警護を要求……。
馬鹿なのか? 喜劇なのか?……結城は目の前で繰り広げられる会議、大臣たちのやり取りが会議と呼べるのならだが、失望した。とても国民には聞かせられないと思った。
「皆さん……」結城は立ち上がった。「……いつ、誰が狙われるのかわからないのです。殺人鬼ジングウが……」あえて殺人鬼と強調した。「……ウロウロしていると国民が知ったら、政治家だけが自衛隊に守られていると知ったら……」
ジングウに怯えている政治家たちをぐるりと見回す。彼らが考えていることはほぼ見当がつく。自分の安全と選挙のことだ。その後に党内派閥のことがあり、役得のことがあり、最後に下々の国民の生活と続く。
「……内閣支持率が低下し、来年の衆議院選挙では厳しい結果を見ることになるでしょう。そんなことにならないよう、ここは万全の対策が必要です」
「それだけ大口をたたくからには、対策があるのだろうな?」
官房長官の鋭い眼が光った。
「捜査も殺し合いも知らない私などがあれこれ言っても始まりません。……攻撃は最大の防御、……自衛隊によるジングウ対策本部を設置して積極的に打って出ます。地元警察にも補助業務を担ってもらいます。本部長には高島1佐を起用、そう考えております」
それは全てその場の思い付きだった。腹案も持たずにその場にいるのだから情けない。話しながらそう思った。
「彼はATF調査団のメンバーだろう?」
官房長官が口をはさんだ。
「だからです。現在、自衛隊の中でジングウを一番知っているのは高島1佐です。ジングウがATFの外にいるのであれば、内部調査はNSCと科学者だけでも対処可能かと……」
結城は熱弁をふるい、ジングウ対策本部設置の合意を取り付けて、官僚の面目だけは守った。
経済産業大臣が結城に目を向け手を挙げた。
「ジングウが優れた人形なら破壊せずに拘束し、そのテクノロジーも解明してほしいね。ATF同様、日本の未来のために必要だ」
「そうだな、その路線でいこう……」総理が声を発した。「……国家安全保障会議は、1、日本国はテロに屈しないことを基本方針とする。2、ジングウ対策本部を設置し、関西地区の自衛隊の運用権限を委譲する。3、ジングウは破壊せず確保する」




