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27-1話 此花姫香 ――傲慢と蔑視――

 車が天鳥船発掘現場に入ると、姫香と比呂彦は外の光景に目を見張った。武装した自衛隊員がひしめき合っていたからだ。


「どういうことですか?」


「私もさっぱり……」


 神野も驚いているようだった。


 天鳥船調査団の本部は異様な空気が満ちていた。影村をはじめNSCの職員や自衛隊関係者は目をつり上げ、一方で科学者たちは眠そうな顔をしている。


 場違いな世界に迷い込んだ。姫香はそんな感想を持った。


 科学者の中に倫子の姿を認めた比呂彦が会釈した。


「宗像博士、こんにちは」


「住吉君も大変だったわね」


 倫子は疲れた顔をしていた。その視線は比呂彦とその後ろにいる姫香の間を行ったり来たりしている。


「僕は何も……。何があったのですか?」


「それは……、私は話したくないわ。彼に聞いて」


 彼女が神野と話す影村を指した。


「住吉君」


 神野が手を挙げて呼んだ。


 姫香は比呂彦にはりつくようにして移動した。影村の机の前に立つと、彼は胡散臭いものを見るように見上げた。


「住吉比呂彦君だね?」


「はい」


「もう一度、天鳥船の中に入りたいのだが……」


 彼の唇が震えていた。その視線はガラス窓の先、天鳥船に向かい、すぐに比呂彦の顔に戻った。


「中にいる女は誰だ? ジングウと名乗っていたが」


「中の物に触るな、人形に触れるな、と警告したはずです」


「生意気な……。私の質問に答えなさい」


 彼が机をたたいて大きな音を立てた。


「大人を舐めるな」


 高島1佐が比呂彦に詰め寄り、胸倉をつかんだ。


 止めて!……姫香は、心の中で叫ぶことしかできなかった。比呂彦が怯えているだろうと思ったがそうではなかった。


「口、臭いです」


 ムッとした表情で顔をそむけた。


「何だとぉ」


 高島1佐は怒気を隠さなかった。


 それまで黙っていた神野が歩み寄り、彼の腕をつかんだ。


「高島1佐、止めないか。住吉さんは、君が守るべき国民だ。影村さんもです。人にものを尋ねるには、それなりの礼儀が要るでしょう」


「こんなやつ」


 高島1佐は不承不承といった態度で比呂彦を解放して自分の席に戻った。


「すまなかったね」


 神野が比呂彦と姫香のために椅子を用意した。


「話してくれないか。ATF……、ここではそう呼んでいるのだが、天鳥船の中にいる女性は誰なのかな?」


 影村に代わって神野が訊いた。


「神宮皇后、……彼女は昔、そう呼ばれていました」


「その話は局長から聞いている。が、まさか……」神野が薄ら笑いを浮かべた。「……本気でそんなことを言っているのではないだろうね?」


「信じるも信じないも、あなたの自由です」


「まったく……」


 影村が、やれやれといったふうに首を振り、それから身を乗り出した。


「冗談に付き合っている暇はないのだ。あの中には……」天鳥船を指差した。「……18名の遺体が残されている。私たちはそれを回収し、かつ、ジングウに罪を償わせなければならない」


「影村さん……」


 神野が首を振り、興奮気味の影村を制止した。それから比呂彦に向かい、遺体の収容に力を貸してほしいと訴えた。


「住吉君、私からもお願い」


 姫香も手を合わせた。影村たちの傲慢な態度には腹が立っていたが、亡きがらを放置してはいけないと思う。そうしてから疑問を感じた。天鳥船と比呂彦との間に、どんな関係があるのだろう?


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