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25-4話

 一方、影村が懸命に、ジングウとの接触を試みていた。


「無茶を言わないでほしい。今の日本のトップは佐藤総理だ。私は彼の部下だ。まず、お互いを理解しあおう」


『ならばその者でよい。この国の主の証を持参するように伝えよ』


「国の主の証……」


 影村が戸惑うように、倫子にも思い当たるものがない。


「強いてあげれば三種の神器か。……だとしたら、国の主は天皇家ということだが」


 渡辺教授が言うと、科学者たちが「なるほど」とつぶやいた。


「時間をくれないか」


 影村が要求する。


『我を侮るな』


 プツンと通信が切れた。


 ほどなく、天鳥船内部は地獄に変わった。ジングウは神出鬼没で、調査班の前後に現れては殺し、素早く消えた。


 本部には、隊員の悲鳴と援軍を求める声がひっきりなしに届いた。そうして影村は撤退を決意したが遅かった。生き残った者も出口にたどり着くことなく、調査隊はほぼ30分で全滅した。


 ――プププププ――


 突然、倫子のスマホのアラームが鳴った。比呂彦との約束の午前3時に設定していたものだ。


「なんてことだ」


 突然、声を発したのは井島博士だった。眼が赤く充血している。彼だけではない。多くのスタッフが寝不足と疲労、そして絶望感で打ちひしがれていた。


「影村さん、どうするのです?」


 高島1佐の口調は、影村に非があると言っているようだった。


「どうする……」


 影村が額に手を当て考える仕草をした。しばらくすると倫子に向いた。


「宗像博士。もう一度彼に依頼したいのだが、博士の口から伝えてもらえないだろうか?」


「はぁ?」


 何を頼むというのだろう。これ以上、しかばねを増やすつもりか?


「彼なら、何かアイディアを持っていると思うのだが」


「そうかもしれませんが、明日にしませんか? みんな疲れているし、彼も寝ているでしょう。ジングウも休むのではないですか?」


 そう話しながら、彼女は何を食べて生きているのだろう、と思った。天鳥船の中に食料工場のようなものがあるのだろうか?


「宗像博士の言う通りだ。疲労がたまっては、よい仕事などできない」


 糀谷博士の発言をきっかけに、その日の作戦は終了することになった。


 倫子は、自衛隊関係の居残るスタッフを横目に、他の科学者たちと一緒に最寄りのホテルに帰った。洗面所の鏡に向かって化粧を落としながら、なんて長い一日だったのだろう、と思った。鏡の中に映る自分の顔が、赤く染まった福島曹長のそれに見えて背筋が凍る。


 人はどうして簡単に死んでしまうのか? そんなことを考えながらベッドに横になった。20名もの自衛隊員が死にゆくところを傍観していたような後ろめたさがある。


 ベッドライトを消して目を閉じた。しっかり寝て目覚めたらしっかり働こう。そう決めたが、神経はたかぶっていて容易に寝付けなかった。


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