25-3話
「なんてことだ!」
高島1佐が立ち上がった。
「久能1尉、桜橋2尉、大城1曹、死亡……」
加藤1尉が報告した。
久能たちのマイクが音を拾うことはなかった。3人を倒したジングウは静かに彼らを見下ろしている。彼女が空になった弾倉を捨て、カランと軽い音が響いた。彼女が屈み、死者の荷物をあさる姿が桜橋2尉のカメラに映った。
「弾倉を補充するつもりだ」
高島1佐が苦虫を噛むように言った。彼は無線機のダイヤルをいじり、マイクを取った。
「ジングウ、聞いているのだろう?」
彼女はしばらく反応しなかった。ひたすら久能たちの荷物を調べている。
「ジングウ……」
2度目に高島1佐が呼びかけた時だった。
『高島1佐とやら。お前が大将か?』
「返事をしたぞ」
スタッフたちは、それまで以上に彼女の動向に注目した。
「大将ではない……」高島1佐は自衛隊の階級の話をした。「……が、ここでは責任者だ。私が現場の指揮を執っている」
『ふむ。それで、我に何の用だ?』
「なぜ殺す?」
そう話した彼の肩を抑え、影村がマイクを取った。
「調査団の総指揮をとっている影村です。ジングウさん。あなたと交渉がしたい」
ジングウは必要なものを手に入れたのだろう。彼女は立ち上がり、ドアの向こう側に姿を消した。が、無線はつながったままだった。
『無用』
「私は話したい」
『ならば王を呼べ』
「呼んでどうする?」
『この国、我が譲り受ける』
なんて大胆な要求だろう。これがただの立てこもり犯の要求なら笑ってしまうところだ。犯人を狂人だと思うだろう。しかしジングウは自衛隊員を数人殺し、おそらく核物質を利用できる状況にある。まさに、核を利用したテロだ。……倫子は渡辺博士に目を向けた。
「国譲りだ。日本書記では経津主神と武甕槌神が大己貴神に国を明け渡せと迫った。ジングウは同じことをしようとしているのだろう」
「大己貴というと、ジングウが土佐堀3佐に尋ねていた人物か?」
高島1佐が目を丸くした。
「大己貴は、人間ではなく神だ」
「神だと? ジングウは神様にあわせろと言っているのか?」
「そこまではわからんよ。本人に訊いてみればいい」
渡辺博士が冷たく応じた。




