25-2話
『高島1佐、遺体はどうしますか?』
久能1尉の声がする。
「後続の班に任せる。久能の班が一番ジングウに近いはずだ。必ず仕留めろ。ジングウは野田3尉の首をへし折った猛者だ。油断するな」
『久能1尉、了解。……前進』
声がすると映像が動き出した。
「殺さないでもらえるかな?」
高島1佐の隣に影村が立っていた。
「私もそうしてほしいわ」
倫子も影村の意見を支持した。もしジングウが比呂彦のいう人形で、かつ神功皇后なら、貴重な研究材料だ。
「すでに5人殺されているのだ」
高島1佐の瞳が怒っていた。
「ジングウはATF同様、貴重な国家の財産ですよ」
「影村さん。国家の財産のためなら、自衛隊員の命はどうなっても良いというのですか?」
「命を懸けて国家と国民、国民の財産を守るのが自衛隊でしょう?」
影村の主張に高島1佐が口をつぐんだ。
モニターにあるのは先頭を歩く久能のカメラ映像だった。
「エックス線カメラ映像も記録されているのですよね? ジングウが映ったところを見せてください。人間かどうかわかるでしょう」
倫子の希望に高島1佐はすぐに応じた。死んだ野田3尉のカメラが記録したものだ。それにはジングウの体内は映っていなかった。
「エックス線も透過しないらしいね」
糀谷博士が感心してみせた。ジングウが人間ではない何かだ、と確信した本部は深刻な空気にのまれた。
久能1尉らが3つのドアを通りぬけ、4つめのドアの前に立った時だった。それまではタイミングよく開閉していたそれが開かなかった。
『ドアが開かないぞ』『おかしいですね』
現場でやり取りする声が聞こえた。
「セキュリティーが復活しているのだろう」
山川博士の声は野次馬のようだった。
「まさか……」
ある者は壁掛時計を、ある者は腕時計を、ある者はスマホの時刻表示に目をやった。
「まだ午前2時20分です。期限までは40分もある」
「住吉比呂彦に騙されたか……」
疑う影村に、それはないだろうと倫子は応じた。
「ならば、なんだ? どうしてドアが開かない!」
彼が噛みついてくる。
『高島1佐、こちら久能。ドアが開きません』
「高島だ。検討している。少し待て」
「ジングウが、ATFを起動させたのではありませんか?」
鮫島が遠慮がちに言った。その意見は多くのスタッフを納得させた。倫子も、それに違いない、と思った。
「久能1尉、ジングウの手によってATFのセキュリティーが復帰した可能性が高い。ドアを……」
――ドドドドド――
高島1佐の声を銃声が遮った。
ナニ? 誰が撃っているの?……倫子はモニターに目を向けた。それは激しく明滅し、何が起きているのかわからない。それが判明したのは久能が倒れたからだった。床に横たわった彼のカメラは自動小銃を両手に構えて乱射するジングウの姿を映していた。それは裸ではなかった。




