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3-1話 吉本直樹  --日本神話と石室ではない何か--

 石室と思われる巨岩が発見されたのは奈良県桜井市の出雲集落の北側の岡、というより山裾やますその小さな台地だった。その台地の土手が大雨で崩落ほうらくし、人の手が加えられた巨岩の一部が露出したのが5年も前のこと。


 それは少なく見積もっても自家用車以上の大きさがあって、表面は磨き上げたようにすべすべしていた。石室の巨石というより、精巧につくられた仏像のような表面だが、最初に調査にあたった考古学の重鎮、奈良総合大学の四条しじょう正一しょういち教授が石室の天井石だと判断したのだ。


 地底レーダーによる調査が行われ、その巨大さに四条教授は驚いた。本格的な発掘調査が必要だとして調査チームを作ったが、発掘には地主の了解と発掘資金が必要だ。ようやく今年、その条件をクリアした。資金は文部科学省の補助金だ。


 調査チームは七つの大学の考古学と歴史学の教授らで構成されていた。リーダーは四条教授。頭髪が真っ白で骸骨のように痩せた老人だ。次席は京都文化大学の渡辺わたなべ敏則としのり教授。四条教授を師と仰ぐ世渡りの上手い中年男性だ。


 他は帝産大学の蒲生がもう丈一郎じょういちろう教授、北海創成大学の久保田くぼた祥子しょうこ准教授、日本創造大学の木野川きのかわ幸那ゆきな准教授、明誠大学の矢野やの秋良あきよし准教授、それに東都大学の吉本だ。


 発掘を管理する本部テントは現場に近い道路わきの空き地に作られたが、研究者たちは道路をはさんだ高い岡の上を好んだ。そこからの方が発掘現場全体を見渡すことができるからだ。


「どうだね。石室はあの山を古墳と見立てて作られたのに違いない」


 岡の頂上に立った四条が、正面に横たわる丸い小山を指した。その山裾の台形の台地に巨岩が埋まっている。


「山が後円部ということですね。手前の台地が前方部……。四条教授が石室の天井石と判断したのは、まさに慧眼けいがん。恐れ入りました」


 渡辺教授が大袈裟に感心してみせた。


「この辺りは武烈ぶれつ天皇の宮があった場所です。もし、この古墳が武烈と関係するものならば、歴史的な大発見です。石室もよほど大きなものでしょう。想像するだけでワクワクします」


 木野川准教授が願望を語った。


 四条が大きくうなずき、大きさは明日香村の石舞台に匹敵し、埋葬品はこれまでの類例を越えるものになるに違いない、と私見を述べた。


 発掘にあたる作業員は100名に近かった。彼らはスコップやツルハシで巨岩のまわりを慎重に掘り進み、掘り出した砂をふるいにかけた。中には土器の破片や木簡などがあって、本部テントに集めて分析された。


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