25-1話 宗像倫子 ――向こう側の惨劇――
野田3尉が不自然な態勢で転倒したかと思うと、全裸のジングウが宙を舞う。
静まりかえった天鳥船調査本部内、宗像倫子が見ているのは福島曹長のカメラが送ってくる映像だった。それまでモニターは背負われたジングウの白い背中と臀部を映していて、男性たちは目尻を下げ、こそこそと卑猥な会話を交わしていたのだ。
幾人かは、ジングウが、比呂彦が警告していた〝人形〟かもしれないと疑っていたが、影村がそれを運び出すと決定したてまえ、口を閉ざしていた。倫子にしても、比呂彦の意見を無視した形になって後ろめたさを覚えていた。が、それ以上に、ジングウが何者なのか知りたくてウズウズしていた。それが一転、激しい戦闘場面に変わったのだから、皆の唇から言葉が消えるのは当然だった。
〝守護者〟……初めて会った夜、比呂彦がそう言っていたのを思い出した。
モニターに自動小銃の安全装置を外す手元が映る。
『撃つな! 相撃ちになる』
静まった本部に、土佐堀3佐の声だけが広がった。
福島曹長のカメラが宙に向いた。ジングウの白い影がモニターを横切る。刹那、映像が激しく揺れた。
――タタタタタ――
自動小銃の発射音が轟く。モニターが眩く点滅した。
――タタタタタ――
再び音がしたと思うと、カメラは天井を映したまま動かなくなった。
「どうした? 何があった? 土佐堀、福島、答えろ!」
怒声にも似た高島1佐の声が轟く。
「土佐堀3佐、野田3尉、福島曹長、死亡確認」
加藤1尉の声が虚ろに聞こえた。
「なんてことだ……」
高島1佐が頭を抱えたのは一瞬だった。すぐに、内部の特殊部隊にジングウの追討を命じた。
「やはりあれが復活した神宮皇后なのだ。あの学生が警告していただろう。神宮皇后が復活したら何が起きるかわからないと」
渡辺教授が声をあげた。
「黙っていてくれ!」
影村が感情的な声を上げた。
モニターは大城1曹から送られる映像に変わっていた。
「直進、次の突き当りを右へ……」
高島1佐が小さなモニターを見ながら久能1尉へ指示を出していた。映像は通路を走り、曲がり、ドアを通り抜ける久能1尉の背中を映している。
5分ほどすると暗い通路の奥に動かないヘッドライトの明かりが現れた。
『土佐堀班を確認』
彼が駆け寄る。映像には三つの遺体と散乱した装備品や計測機器があった。顔面を至近距離から撃ち抜かれた福島曹長の遺体は目も当てられない状態だった。
――グッ……、倫子の喉が鳴る。油断したら胃袋の中身をぶちまけてしまいそうだ。必死でこらえた。
『ひでえな……』
桜橋2尉の唇が震えていた。
「警戒を怠るな。ジングウは近くにいるはずだ」
高島1佐が警告した。
『了解、桜橋は前、大城は後ろを警戒』
命じた久能3佐がカメラを切り替えた。その映像が巨大モニターに映る。
『土佐堀3佐、福島曹長は射殺、野田3尉は首を折られている。奪われたのは野田3尉と福島曹長の自動小銃及び……土佐堀、野田、福島の予備弾倉並びに銃弾……、野田の無線機もなくなっています……』
「高島だ。全隊員に告ぐ。ジングウが無線機を持ち去った。これより通信を暗号F1に切り替える……」
彼は自分の無線機のダイヤルを調整した後、改めて天鳥船内の特殊部隊へジングウの捜索を命じた。




