24-2話
さて、どうしたものか? このままで良いはずがない。こんな男たちに船の中を自由に歩く権利はない。
「おい」
自分を運ぶ人間に声をかけた。
「良かった。意識が戻ったのか……」
野田3尉が足を止めた。
良かった? この者たちは仲間なのか?……オキナガタラシは戸惑った。
「隊長、女性の意識が戻りました。……どこか痛みはないか? のどは乾いていないか?」
彼が訊いた。
「痛みなど無縁……。お前は何者だ?」
「自衛隊です」
応じたのは戻ってきた土佐堀だった。
「ジエイタイ?」
「自衛隊を知らないのですか? 自分は自衛隊の土佐堀といいます。あなたを助けます。あなたの名前は?」
「ジングウ……」少し考えて答えた。真の名前を教えるつもりはなかった。「……降ろせ、歩く」
シールド越しの顔は表情が読みにくい。助けるといわれても、信じられなかった。身体の大きな男に身体の一部でも抑えられているのも不安だった。
「歩くのは無理ですよ」
野田3尉は降ろそうとしなかった。
「時間がない。歩きながら話そう」
土佐堀が歩き出す。
「少彦名はいるのか?」
「スクナビコナ?」
「ならば武内宿禰を呼べ」
「タケウチ? どこの武内さんですか?」
「ならば大田田根子を。大己貴でもいい」
「オオタ?……その人はどこの太田さん? 職場とか住所とか?」
少彦名も武内宿禰も、大田田根子や大己貴も知らないというのか。……オキナガタラシの中の疑念が膨らんだ。
「お前たちは何故ここにいる? 誰の許しを得た?」
「政府の偉いさんに天鳥船を調べるように命じられたのですよ。ジングウさんこそ、どうやってここに入ったの?」
天鳥船?……その名は、オキナガタラシの知る船の名ではなかった。
『野田3尉、無駄口をたたくな。極秘事項だ』
その声は彼女の耳にも届いた。……彼等には私に語れない秘密がある。彼らは敵だ。たとえそうでなくても、怪しいモノは排除する。そう決断した。
やれるか? やる!……自分を励ました。
「……高島1佐、申し訳ありません。つい……」
彼が名前を挙げた高島1佐というのが指揮官らしい。別の場所から、兵隊を操っているのだろう。
「……改めます」
おぶさった男の筋肉が強張るのがわかった。
今だ!……野田3尉のヘルメットに両腕をかける。上半身をのけぞらせ、体重を彼の首にかけた。ヘッドライトが天井を照らし、尻を支えていた彼の両手が宙を泳ぐ。自由になった身体を折り、両足を彼の頸部にかけた。




