23-2話
土佐堀たちが3室を確認し、4番目の扉を開けた時だった。天鳥船の中で、初めて生命の気配を感じた。
目の当たりにしたのは全裸の女性だった。小柄な真っ白の身体に腰まで伸びた黒髪。胸は僅かに膨らみ淡い桃色の乳首は大きい。目鼻立ちがはっきりした顔はエキゾチックな美しさがあった。
彼女はオレンジ色の椅子に黒い紐状の物で縛り付けられていた。それが胸や腰、手首や足首に食い込んでいるのが痛々しい。頭には銀色の帽子のようなものが被せられ、それから延びたケーブルが天井に繋がっていた。
「カーボンワイヤーのようです」
野田3尉が工具を取りだし、黒い紐の切断にかかる。
『土佐堀3佐、それはなんだ?』
報告するより早く、高島1佐の声がした。
「人間のようです」
土佐堀は女性の首筋に手袋のセンサーを当てた。
――脈拍0、血圧0-0、呼吸0、体温35――
小さなモニターに数字が並ぶ。
『死んでいるのか?』
「そのようですが、体温はそれなりにあります」
『良く映せ』
土佐堀は彼女の正面に立って、顔、胸、腹と自分の頭を傾けて彼女の映像を本部へ送った。陰毛を目にした時は胸が疼いた。ひどく生々しい。ヘッドホンから、高島1佐が生唾を飲む音がした。
『注意しろ。それが人形かもしれない』
影村の声がした時は手遅れだった。野田3尉と福島曹長がワイヤーを切断し、彼女を床に寝かせようとしていた。その身体には、固定されていた場所に色鮮やかなうっ血痕があった。
「これは人間です」
人は五感の中でも視覚の影響を受けやすい。野田3尉が確信のこもった声をあげた。
「かわいそうに。拉致されたのでしょうか?」
福島曹長が誰にというわけではなく疑問を言った。
「うっ血痕が新しい。隊長、どういうことでしょう?」
「わからん……」
土佐堀にも彼女は、たった今死んだように見えた。
「……高島1佐、蘇生できるかもしれません」
『分った。保護しろ』
高島1佐の決断は早かった。
「蘇生措置を」
野田3尉が心臓マッサージを試みる。それはすぐに効果があった。ドクン、と体内で脈動が生じた。肺が空気をふくみ、胸が丸く膨らむ。
――脈拍40、血圧80-30、呼吸10、体温35――
「ヨシ、蘇生した」
『よくやった!』
ヘッドホンの向こうから、本部の歓声が聞こえた。
「今から戻る。誘導、頼む」
やって来たルートはシンプルで頭に入っていたが、船内の景色はどこも似たようで間違う可能性もある。念のために頼んだ。目的の機関部にはたどり着けなかったが、人の命は地球より重い。昔の政治家の言葉を利用して、今回の成果を評価した。
「野田3尉、荷物を下ろして彼女を背負え。荷物は俺と福島が引き受ける」
命じると野田が相好を崩し、福島曹長は失望のため息をついた。




