23-1話 土佐堀3佐 ――全裸の美女――
「娯楽室か何かではないでしょうか」
土佐堀は、床と壁に描かれたラインを見てそう判断した。知っているスカッシュのコートと似ていたからだ。ラインは天井にまである。
『了解、そこはもういい。続き、前進。機関もしくはコントロールルームを探せ』
高島1佐の命令が返ってくる。
「了解」
土佐堀は、久能1尉、桜橋2尉、野田3尉、福島曹長、大城1曹といった部下に向かって、手の動きで前進を指示した。なだらかなスロープが下に向かっている。
「階段ではなく、スロープなんですね」
「桜橋2尉は、変なことに感心するんだな。宇宙人には、タコみたいに足のないやつもいるのだろう」
最後尾を歩く久能1尉が笑った。
「これは宇宙人の物なのですか? てっきり、古代人のものなのかと」
福島曹長が改めて暗闇を見回した。彼のヘッドライトが後ろの野田3尉を照らした。
「どっちでもいいさ。空き家なんだ」
「それにしても退屈な任務ですね」
大城1曹が語り、同調するように福島曹長が疑問を言う。
「防護用ヘルメット、はずしたいです。息苦しくて仕方がありません」
「止めておけ。下に行くほど放射線量が上がっている。子供ができなくなっちまうぞ」
福島曹長が笑った。
「あそこを守っていれば、子供はできますよ。……先行した班は、どうして失敗したのでしょう?」
「油断するな。目黒班では2名も死者を出したのだ。その中のひとりは野田3尉の同期だろう?」
土佐堀は部下を叱った。とはいえ、土佐堀自身、歯ごたえのない任務だと考えていた。放射線量が若干高いことと明かりがないことを除けば、公園を散歩するような任務だ。
スロープを下り、部屋を五つ確認した。が、時間を浪費しただけで動力期間もコントロールルームも見つからなかった。
『全班に次ぐ。まもなく零時だ。タイムリミットは午前3時。時間がない。早く動力室とコントロールルームを探しだせ』
高島1佐の檄が飛んだ。
「了解」
土佐堀は足を速めた。
再びスロープがあった。下層階におりるばかりで容易に前方部へたどり着かない。自分たちはババを引いたのではないか? 他の班のルートが目的地につながっているのではないか? 手ごたえのない任務だが、他の班に手柄を持って行かれたくはない。そんなことを考えながらスロープを下りた。
通路の先にはドアがひとつしかなかった。そのドアも土佐堀が近づくと音もなく開いた。動力が止っていると聞いている。それで照明が落ちているのだろうと考えていたが、ドアだけが動くのは不思議だった。本部に尋ねたが、本部もその答えを持ってはいなかった。
「高島1佐、土佐堀です。コンソールパネルがあります」
『そうか。他には?』
前のめりの返事があった。
「四方の壁にドアがひとつずつ……」
大城1曹を手招きし、可視光モードのカメラで、映せ、と指示した。
「隊長、これがそこに……」
野田3尉がタブレットに似た金属板を差し出した。
『なんだ?』
「わかりません。タブレットサイズの金属板です。厚み10ミリ……」
土佐堀は受けとった金属板の裏表を確認した。ヘッドライトの光にかざすと薄っすらと線が見えた。2センチ四方の正方形を作っている。
「……何らかの機械のようです。指紋認証の形跡があります」
『ヨシ、持ち帰れ』
土佐堀は一瞬戸惑った。当初の命令は内部の備品や人形には触れるな、というものだったからだ。……戦場では臨機応変な対応が求められる。そう思いなおして「了解」と応じた。その時初めて、今回の任務で最大の興奮を覚えた。
「大城1曹! なくすなよ」
彼を呼んで、金属板を託す。
『土佐堀3佐、時間がない。ふた班に分ける。土佐堀3佐、野田3尉、福島曹長は正面のドアを、久能1尉、桜庭2尉、大城1曹は右の扉を進め』
「土佐堀3佐、了解」
「久能1尉、了解しました」
そう応じ、6人はふた手に分かれた。




