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22-2話

 姫香たちが案内された部屋は、大きなソファーのある広いツインルームだった。ベッドもセミダブルだ。絵画、花瓶、サイドテーブルまで、美術館にありそうなシックなインテリアがホテルの格式をかもし出していた。


「シングルルームは無いのですか? ここでは此花さんが困ります」


 住吉の抗議に神野が目を丸くし、そのままの視線を姫香に向けた。


「住吉君、いいのよ。私がツインにするように頼んだの」


「エッ?」


 今度は比呂彦が驚きの表情を作った。


「そういうことですので」


 神野が口角を上げた。


「そうでしたか……」比呂彦の顔から表情が消える。「……影村さんに伝えてください。時間厳守でお願いします。救助作業以外は行わない。それと前にもお願いしましたが、中の備品と人形には絶対触れてはいけないと。くれぐれも忘れないように。……これは警告です」


 すると神野が不愉快そうに顔をしかめた。


「警告とは、穏やかじゃないですね」


「皆さんのためです」


「では、私からも警告をひとつ。ホテルの建物から勝手に出ないでください。外に出たいときには、私に連絡をください。では」


 彼は会釈もせずにドアを閉めた。


「感じ悪いわね。まるで監禁されているみたい」


 ドアに向かって姫香は言った。


「こういうのを軟禁というのです。わざわざ遠くに置かれたようです」


 比呂彦が窓際に立ち、その先に臨む若草山に目を向けた。


「そうなの?」


「僕の仕事は済みましたから。口を出されないようにしたのでしょう。それよりも、巻き込んでしまってすみません。今日、帰る予定だったのに」


 彼が振り返り、頭を下げた。


「いいのよ。夏休みだし、こんな立派なホテルにも泊まれるし」


 ベッドにダイブする。自分の部屋のベッドと違ってふわふわだった。かといって沈むわけでもない。身体はしっかりと支えられていた。


「最高よ。このベッド」


 ポンと弾んで身体を起こした。彼と視線がぶつかり、顔がカッと熱くなった。まるでベッドに誘っているみたいじゃない!


 しかし、彼がベッドに来ることはなかった。その瞳は女性を求める男性のそれではない。マネキン人形のもののようだ。


「先輩は帰っても良かったのですよ」


 そう言われると少し腹が立つ。女性と一夜を過ごす状況なのにムラムラするものを感じないのだろうか? 彼に女としてみられていない? だから彼といても平気なのかな?……比呂彦に対する興味は深まるばかりだ。


「私だって日本史を学ぶ学生よ。天鳥船のことは知りたいわ。仕事が済んだって、どういうことなの? 住吉君は天鳥船とどんな関係があるの?」


 本当に話したいことと別なことを言った。


「話せば長くなります」


「大丈夫よ。明日まで、時間はたっぷりあるわ」


「僕は先輩を失望させたくない」


「どういうこと?」


 もしかしたらゲイ? それともED(インポテンツ)?……いつの間にか彼の中に〝オトコ〟を見ていたことに気づいた。


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