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22-1話 此花姫香 ――おもてなしという名の拘束――

 姫香と比呂彦を乗せた車が奈良市内の老舗しにせホテルに入った。運転しているのは天鳥船調査団の事務を担当しているという神野じんの君明きみあきだ。


 その日の午後、姫香と比呂彦が考古学者たちのテントにいると彼が訪ねてきて、比呂彦に調査団に入るよう要請してきた。居合わせた考古学者たちが目を白黒させた。姫香も同じだ。どうして政府の調査団が彼を招聘するのか理由がわからない。


 比呂彦と神野がテントの外でこそこそと打合せをした。その時、誰かと電話でやり取りもしていた。姫香は聞き耳を立てていた。「止める」とか「助ける」といった言葉が聞こえたけれど、内容はほとんど理解できなかった。そうした打ち合わせの後、テント内に戻った比呂彦は10分ほどパソコンに向かっていた。彼がその作業を終えるのを待って、神野が用意した車に乗った。


「申し訳ありません。桜井付近のホテルは調査団やメディアの者たちで満室なものですから。奈良県は観光地ですが、多くの観光客は京都や大阪に宿泊するので、ホテルの数は少ないのです」


 車の中で、天鳥船から遠いホテルに泊まる、取ってつけたような言い訳を聞かされた。


 彼が用意したホテルは、皇室も泊まるという一流ホテルだった。歴史のある建物だが、古さを感じさせない威厳と風格のあるホテルだ。


「昨日宿泊した橿原市のビジネスホテルは空いているようでしたけど?」


 天鳥船までは橿原市のほうがはるかに近かい。そのことを指摘すると、神野が苦笑した。


「住吉さんはVIPですから、ビジネスホテルに泊めるわけにはいきません」


 今度は姫香が苦笑する番だった。比呂彦といえば関心なさそうにしている。


「さあ、どうぞ」


 神野に促されて厳めしいデザインのドアをくぐった。


 ロビーは木材を多用したシックな作りだった。毛足の長い絨毯は雲の上を歩いているような気持ちにさせた。腰を下ろしたソファーは硬めなのに身体を優しく支えてくれた。


「ここで待っていてください。手続きをしてきます」


 2人をそこに残し、彼はフロントに向かった。


「ここ、高いんでしょうね?」


 豪華な空間を見回す。


「そうですね。こんなことすることないのに」


 相変わらず、比呂彦は関心なさそうだ。


 姫香はフロントに走った。神野がホテルマンと打合せをしているところだった。

声をかけると彼が振り返る。


「私たち、一部屋にしてください。ツインルームで」


 そう頼むと彼が目を丸くした。それから一瞬、下卑た笑みを浮かべた。彼の頭の中を想像すると背筋が凍る。


「イヤラシイ想像はしないでください。私たち学生なので、出来るだけ安い部屋でお願いします」


 姫香の頼みに一番困惑したのはフロント係のようだった。


「いかがいたしますか?」


 彼女が神野に尋ねた。彼が答える前に、姫香は言った。


「税金なのですよね、ここの宿泊料?」


「そりゃ、まあ……」


「まだ納税していないのに、高い部屋に泊めてもらうのはどうかと思うんです」


「見かけよりしっかりしているんだな。しかし、ここは私に任せてください。セキュリティーの関係もありますから」


 神野が強く言った。譲るつもりはない、といった意思がみえた。


 見かけよりしっかりしている? セキュリティー?……納得できる話ではなかったけれど、目の前でフロント係が困り顔をしているので引き下がった。


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