21-3話
「住吉比呂彦が来ていない……」
彼はどうやって天鳥船の機関を停止させたというのだろう?……倫子の脳裏にアインシュタイン博士の顔が浮かんだ。彼ならそんなすべを持っているのかもしれない。
「現代の原子炉では考えにくいことですが、まるでテレビを消すように遠隔操作しているようです」
そう言ったのは糀谷博士だった。
「主役はここにおらず、我々は徹夜覚悟。笑えますな」
鏑矢博士が皮肉めいた言い方をした。
「いいじゃないですか。お蔭で……」糀谷が窓の外を指した。「……上手くいけば今夜、あれの原子力機関が見られるかもしれない。録画で見るより、見たい場所を指示したい。……まあ、彼が許してくれればですが」
彼が高島1佐の背中を顎で指した。
「機関部に入る時は、糀谷博士の知恵を借りることになると思いますよ」
影村が言った。
「住吉比呂彦は、今、どこにいるのです? 昼間は岡の上だと言っていましたが」
彼と会って、どうやって天鳥船の機関を止めたのか、確認したかった。
「私たちが用意したホテルですよ。彼女と一緒によろしくやっているでしょう」
「彼女?」
「同じサークルのメンバーだそうです。一応調べてみました。彼女、そのサークルで反政府デモに参加していた。彼もいっしょです。が、思想的な背景はなかった。若者らしい大人への反発というところでしょう。それで一緒に放り込んであります」
「反政府デモ?」
「国会前で行われた劣化ウラン弾に関するやつですよ」
次から次と、知らないことを並べられて驚いた。それ以上に、影村の乱暴な口の利き方に、気分が悪くなって話を止めた。
「それにしても、宗像先生はどこでその学生と知り合ったのですか?」
井島博士の疑問は、他の研究者と同じだった。多くの視線が倫子に集まる。
「話しても信じてもらえないでしょう」
倫子は話したくなかった。そうしたところで嘲笑されるだけだろう。
「信じますよ。是非、話してください」
山川博士が瞳を光らせている。
彼らの追求からは逃げられそうにないと感じ、渋々口を開いた。
「住吉比呂彦と初めて会ったのは、夫の通夜の日でした。深夜……」
戸惑いながらアインシュタインの名前を出した。もちろん彼が他界していると知っている、と言い訳も加えた。天鳥船に神功皇后が眠っていること、彼女が復活したら災いが起きること、その時、比呂彦が役立つとアインシュタインが話したこと。すべて包み隠さず話した。
結果、研究者たちが笑うことも否定することもなかった。けれど、「アインシュタインが……」「神功皇后ですか……」と呆れたようにつぶやき、あるいは同情するような眼で倫子を見た。




