21-2話
「宗像博士ですね。御高名はかねがね伺っております。この度は急遽参加いただきありがとうございます」
最初に握手を求めてきたのが調査団を統括する影村だった。官僚というより、スパイ映画に見るような諜報部員を思わせる中年男性だった。
倫子は彼の手を握り返した。
「こちらこそ。あれを間近で見るだけでも調査団に参加する価値があります」
窓の外に目をやった。そこにある天鳥船には沢山のライトが向けられ、その全貌を妖しく浮き上がらせていた。後円部にあたる頭頂部付近には足場が組まれ、数名の自衛隊員が銃器を構えて待機している。赤い光が点滅しているように見えるのは、救急車の赤色灯のようだ。
倫子の前に、調査団に参加している研究者たちが列をなした。彼らと挨拶を交わした後、影村に尋ねた。
「救助活動は進んでいるのですか?」
「30分ほど前に、救助チームが中に入ったところです。まもなく出てくるでしょう」
彼が大型モニターを指した。内部を進む隊員から送られてくる映像が映っている。
「これが……」
倫子はモニターに近づき、映っている内部構造に注目した。見る限りオフィスビルの通路と違った様子は見えない。中に入りたい。入って機関部を見たいと思った。
「土佐堀3佐、その右奥のドアの中も確認してくれ。田中1尉は左奥の部屋を」
制服姿の高島1佐が指示を出していた。
『了解、確認します。……コンソールパネルなし。娯楽室か何かではないでしょうか』
『こちら田中、倉庫のようです。金属コンテナに衣類と思しきものがあります。まるで古代中国の衣装のようです』
「了解、そこはもういい。続き、前進。機関もしくはコントロールルームを探せ」
彼等のやり取りに倫子は違和感を覚えた。
「彼らは死傷者を収容しているようには見えませんが……」
背後の影村に尋ねた。
「時間がないので両面作戦を取っています」
「両面作戦?」
「救助にあたるチームと、ATFの調査をするチームです。高島1佐が指示を出しているのは調査チームで、3班が活動中です」
「住吉君、……住吉比呂彦の話では、救助のためにあれの動力を切るということでしたが?」
「12時間止めるという約束です。その間、内部の調査をしないとは約束していない。そう、確認しています」
詭弁だ。……倫子は思った。
「彼から聞いたこととは、ずいぶん話が違うようです」
「私を、いや、日本政府を非難されるのですか? 宗像博士、あなただってATFの中が見たいはずだ。何から何まで、隅々まで。……機械は分解し、テストしてみたいはずだ。違いますか?」
彼の言う通りだった。倫子は反論できなかった。
「……彼は、……住吉比呂彦はそれを知らないのですね?」
「もちろん。知らせる必要などないでしょう」
彼がモニターに目を向ける。
「ATFが我々の支配下に入ったら、博士にも調査に入っていただきますよ。そのかわりに、住吉比呂彦のお守りをお願いしますよ」
「私は子守ですか……」
大きなため息が漏れた。
それを批判と受け取ったのだろう。影村が口元をゆがめた。
「住吉比呂彦は子供ですか?」
「会っていないのですか? ATFを止めに来たのでしょう」
「彼は来ていませんよ。一応、我が調査団の1名に加えられましたので、丁重におもてなしをしていますが」
彼が冷ややかに笑った。




