18-3話
影村は、現場の様子を見るのが嫌で宙を見ていた。耳に、目黒1尉の声が届いた。
『高感度アンテナのバッテリーが液漏れをおこしている。低温のため、躯体が壊れたと認める』
そうか、あの部屋は一時的に超低温になったのだな。何故だろう?……そんなことを考えた時だった。
――フォンフォンフォン……、再びあの警戒音が鳴った。
影村は驚き、また飛び上がりそうになった。モニターに目をやると、それはオレンジ色をしていた。
「まただ」「すごいな」「どうしてだ?」方々で声が上がった。
〝イグニス〟は死んでいる。今度は何がまずかったのだ?……影村は机をたたいた。
『隊長!』
秋本曹長の声だ。
「目黒1尉、どういうことだ?」
高島1佐が問いかけた。
『不明、閉じ込められました』
目黒1尉の声は落ち着いていた。
『室温低下……、マイナス10……、どうなっているんだ。……マイナス25……』
――ピピピピピ……、その警告音が鳴ると、天鳥船が発する警戒音は消えた。
「目黒1尉、体温、脈拍低下……。外気温はマイナス42度」
加藤1尉が絶望的な声を上げた。
目黒1尉の死を確信したのだろう。高島1佐の肩が落ちた。
影村に向き直る。
「救助隊を出します」
「救助隊……」
声にしたのは、その妥当性を検討する時間を稼ぐためだ。
「ATF周囲の放射線レベルが上がっています! 1分前から2倍に上昇」
加藤1尉がモニターを指した。
「高島さん。ATF全体が非常事態に入ったということではないのか?」
井島博士の問いに、強く同意を覚えた。
「おそらくそうです」
「高島1佐、目黒1尉の生体反応が消えました。脈拍、呼吸ともにゼロ」
加藤1尉の声を、誰もが素直に受け入れた。彼が警告音を消す。
「扉や内殻壁が自動的に再生するのは、セキュリティーのためというより、気密性を確保するためでしょうな。放射線量の増加は、ATF自体の活動量の増加の結果に違いない」
2名もの隊員が死亡したというのに、そのことに井島博士は関心なさそうだった。
「博士、これからも増えますか?」
影村は尋ねた。原子力機関が暴走するようなことがあったら、原発事故の二の舞になりかねない。
「わかりません。しかし、ATFが再生を繰り返すためには、そのためのエネルギーをどこかから調達しなければならない。それだけは言える」
倫子は断言した。
「救助部隊を投入した場合、二次被害の確率は?」
影村は高島1佐に向いた。
「わかりません」
「私は、100パーセントだと思いますよ。あの部屋を通る限り……」
コンソールパネルのある部屋に人間が入るのを、天鳥船は拒んでいるのだろう。モニターを振り返った。立川1曹のカメラが通路の遺体袋を映していた。
『高島1佐、隅田2尉であります。これから自分が指揮を執ります。指示をください』
声がすると、本部内の視線が高島1佐と影村の間を行き来する。
影村は部屋の中を2往復してから自分の席に座り、受話器を取った。
「NSC局長を頼む。不在なら、官房長官を……」




