表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/123

18-3話

 影村は、現場の様子を見るのが嫌で宙を見ていた。耳に、目黒1尉の声が届いた。


『高感度アンテナのバッテリーが液漏れをおこしている。低温のため、躯体が壊れたと認める』


 そうか、あの部屋は一時的に超低温になったのだな。何故だろう?……そんなことを考えた時だった。


 ――フォンフォンフォン……、再びあの警戒音が鳴った。


 影村は驚き、また飛び上がりそうになった。モニターに目をやると、それはオレンジ色をしていた。


「まただ」「すごいな」「どうしてだ?」方々で声が上がった。


〝イグニス〟は死んでいる。今度は何がまずかったのだ?……影村は机をたたいた。


『隊長!』


 秋本曹長の声だ。


「目黒1尉、どういうことだ?」


 高島1佐が問いかけた。


『不明、閉じ込められました』


 目黒1尉の声は落ち着いていた。


『室温低下……、マイナス10……、どうなっているんだ。……マイナス25……』


 ――ピピピピピ……、その警告音が鳴ると、天鳥船が発する警戒音は消えた。


「目黒1尉、体温、脈拍低下……。外気温はマイナス42度」


 加藤1尉が絶望的な声を上げた。


 目黒1尉の死を確信したのだろう。高島1佐の肩が落ちた。


 影村に向き直る。


「救助隊を出します」


「救助隊……」


 声にしたのは、その妥当性を検討する時間を稼ぐためだ。


「ATF周囲の放射線レベルが上がっています! 1分前から2倍に上昇」


 加藤1尉がモニターを指した。


「高島さん。ATF全体が非常事態に入ったということではないのか?」


 井島博士の問いに、強く同意を覚えた。


「おそらくそうです」


「高島1佐、目黒1尉の生体反応が消えました。脈拍、呼吸ともにゼロ」


 加藤1尉の声を、誰もが素直に受け入れた。彼が警告音を消す。


「扉や内殻壁が自動的に再生するのは、セキュリティーのためというより、気密性を確保するためでしょうな。放射線量の増加は、ATF自体の活動量の増加の結果に違いない」


 2名もの隊員が死亡したというのに、そのことに井島博士は関心なさそうだった。


「博士、これからも増えますか?」


 影村は尋ねた。原子力機関が暴走するようなことがあったら、原発事故の二の舞になりかねない。


「わかりません。しかし、ATFが再生を繰り返すためには、そのためのエネルギーをどこかから調達しなければならない。それだけは言える」


 倫子は断言した。


「救助部隊を投入した場合、二次被害の確率は?」


 影村は高島1佐に向いた。


「わかりません」


「私は、100パーセントだと思いますよ。あの部屋を通る限り……」


 コンソールパネルのある部屋に人間が入るのを、天鳥船は拒んでいるのだろう。モニターを振り返った。立川1曹のカメラが通路の遺体袋を映していた。


『高島1佐、隅田2尉であります。これから自分が指揮を執ります。指示をください』


 声がすると、本部内の視線が高島1佐と影村の間を行き来する。


 影村は部屋の中を2往復してから自分の席に座り、受話器を取った。


「NSC局長を頼む。不在なら、官房長官を……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ