17話 此花姫香 ――悪い知らせ――
姫香は桜井駅に近いファミレスで比呂彦と向き合っていた。電車の中で汗はひいてしまったので、目的は食事だ。そして彼の秘密を探ること。
姫香はカルボナーラとアイスティーを頼んだ。彼はオムライスとミルク。
「住吉君、卵料理が好きなの?」
「どうして?」
「オムライスやオムレツ、天津飯を頼んでいることが多くない?」
「あー、そうかもしれませんね。たぶん、好きなのだと思います」
「彼が真顔で応じた。まるで他人事だ。
――キンコン――
鳴ったのは彼のスマホだった。一瞬、ディスプレーが目に入った。メッセージのようだ。
彼はそれを一瞥して表情を暗くした。
「どうかしたの?」
「いえ……」
彼はそっとスマホを置いた。ディスプレーを伏せるようにして。
「もしかしたら、昨夜会っていたお年寄りから?」
「見ていたのですね」
「偶然、通りかかったのよ」
「そうですか。でも、彼からではありません」
「悪い知らせ?」
彼の表情からは、それしか想像しようがなかった。
「ええ、まあ」
そう応じながら、彼はスプーンを口に運んだ。
「あの人って、住吉君のおじいさん?」
「いいえ。そんな風に見えましたか?」
「見た目の年齢がそんな感じかなぁ、って」
「なるほど。そんな風にみえるのですね。でも違います」
両親がいないことはすでに聞いていた。家族のいない彼に悪い知らせがあるとしたら、友人か、居候をしている宗像家のことに違いない。
「東京に帰らなければならないの? 私ならひとりでも大丈夫よ」
気を利かせたつもりで言った。
「食事が済んだら、僕は発掘現場に戻ります。先輩は先に帰ってください。ここを離れた方がいい」
悪い知らせというのは、天鳥船に関することなのだろう。
「あそこで何かがあったのね。ここを離れた方がいいというのは、どういうこと? 私にできることはない?」
彼を守りたい、と思った。が、彼はこちらの気持ちを知ってか、知らずか、返事さえしない。ただ、黙々と食事を続けている。
何も教えないつもりらしい。そうわかると、気持ちは反発した。絶対帰るものか!……淡々と食事をとる彼の顔を睨むように見つめていた。




