16-1話 野々村3尉 ――無機質な反撃――
――ダダダダダ……、5挺の自動小銃が火を噴き、闇が明滅する。
野々村は無心に引き金を引いた。目の前のドアに点々と黒い穴が開いていく。
「撃ち方止め!」
隊長の声に身体が機械的に反応する。引き金から指が離れ、闇の世界に静寂が戻る。
隅田2位が前に出てドアを蹴飛ばした。その先にあったのは長い通路。懐中電灯の鋭い灯りが突き当りの壁を照らした。
「野々村3尉、ひとりになるが、後を頼むぞ」
「ハイ、任せてください」
野々村は4名のヘッドライトの明かりが廊下を進んでいくのを数秒確認すると、自分の背嚢からランタンタイプの非常灯を出してテーブルの上に置いた。室内が全体的に明るくなり、コンソールパネルも見やすくなる。
通路に目をやる。すでに仲間の気配はなかった。改めて天井を見上げた。そこに照明器具らしき物は見当たらない。ここに住んでいた人たちは、いつも照明器具を持ち歩いていたのだろうか? それとも光以外のもので物を検知していたのだろうか?……野々村はチョウチンアンコウやイルカを想像した。
ヨシ、やるぞ。……自分を奮い立たせ、予備の高精度アンテナを取り出す。ふと、気づいたことがあった。
「高島1佐、野々村3尉であります。私のカメラは赤外線モードなのですが、可視光線のほうが良いですか? ここの可視光映像が必要なら、モードを切り替えます」
高島1佐と話すのは初めてで、少し緊張した。
すぐに、切り替えるようにと返事があり、ヘルメットに装着されているカメラを可視光モードに切り替えた。
高精度アンテナを組み立てる。微弱な電波を拾うと聞いたので、ブースターとモバイルバッテリーも取り付けた。
「高島1佐、アンテナの設置を完了しました。自分は何をすれば良いのですか? 指示をください」
報告するとすぐに反応があった。
『ヨシ、今、担当の山川博士と変わる。無線を本部用の秘話モードに変えて、博士の指示に従え……』
「了解」
仲間に知られてはまずいことがあるのだろうか?……考えながら、無線をオープンモードから秘話モードに変更、2人だけの会話に集中する。
高島1佐にくらべればとても優しげな中年男性の声がした。
『宇宙開発機構の山川です。簡単な作業です。コンソールパネルの右上から順番にいきましょう。キーを1秒間押してください……』
「了解」
野々村は応じ、コンソールパネルのキーに指を伸ばした。アルファベットのAを横倒しにしたような文字が記されたキーだ。
指がそれに触れる前に、宙に発光するモニターが現れた。プロジェクターのような光源があるのかと考えて見回したが、それらしい物はなかった。
『押してください』
キーに触れる。放射線防護用の手袋をしているので、キーを押した感覚はない。頭の中でゆっくり、イーチ、と数えた。それで1秒だ。
発光モニターにキーに記された文字が映る。天鳥船に乗っていた者たちも、目を持ち、それを使っていたのだ、と実感した。




