14-1話 影村辰夫 ――AI〝イグニス〟の挑戦――
「どう見るね? これは天鳥船を作った文明の謎を解く大きなカギだ」
コンソールパネルの映像を前に興奮気味に語るのは渡辺教授だった。
「教授は、あれが何語かわかりますか?」
影村は巨大なモニターに映っているコンソールパネルを指した。キーは横に10列、縦に3段、計30個のキーがあった。
「さて……、日本にも神代文字というものがあると信じている者たちがいる。あの島津家の家紋のような丸に十文字の記号……」
彼が隅田2尉が交番の地図記号と表現した記号を指した。
「……〝な〟を意味するものに似ているが……」
「他のものはどうです?」
「共通するものは無いな。第一、神代文字は50音表記とされる。あのパネルにあるキーの数では足りない。むしろ、うろ覚えだが、フェニキア文字があんなものではなかったかな?」
渡辺教授が普段と違って自信なさげに話した。
「フェニキア文字ですか……」
影村はフェニキア文字もフェニキア人も知らなかった。ネットで検索すると、確かにコンソールパネルにある記号と似たフェニキア文字がヒットした。
「これですね?」
「ああ、それそれ。似ているだろう?」
「確かに……。紀元前3000年ごろの文明なのですね。日本だと……」
「石器時代だよ。まあ、ヨーロッパでも石器時代に違いはないが、青銅器を使う文明が生まれ始めていた。その中にフェニキア文明もあるが、まさか、自動扉を実現するような文明を持っていたという記録はない」
「教授が知らないだけでは?」
「馬鹿を言うな! そんな文明の存在が認知されていたら、隠しておけるはずがない。こうして突然見つかって混乱させるから、あれはオーパーツ、あの時代、いや、現代においてさえそぐわない存在なのだ」
「オーパーツ、ですか……」
影村はその言葉をかみしめた。
「宇宙開発センターのスパコンで分析しましょう」
山川博士が手を挙げた。
「言語学の専門家ではないでしょう。できるのですか?」
影村が疑問を言うと彼が笑った。
「分析するのは文字ではありませんよ。スクリーンが現れたところを見ると、コンソールに関わるシステムは生きている。テーブルには機械らしいものは見えないが、どこかにそれがあるはずです。それとのやり取りには微弱だが電磁波が発生する。それを拾って、コンソールのキーから古代人のプログラムを解析、ATFのシステムをハッキングするのです」
「それはすごい」
影村は地獄に仏とばかりに喜んだ。
「しかし、時間がかかると思いますよ」
糀谷博士が水を差す。




