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13-2話

「開始」


 命じると秋本曹長の手にした機械から緑色のレーザー光が放射される。


 光の糸を見たのは一瞬だった。それが最高出力に達する前、3次元方程式のグラフのような曲線を描いたかと思うと同時に、秋本曹長ごと目の前から消えていた。


 何が起きたかわからず戸惑ったが、秋本曹長が消えたのは、外殻に穴をあけようとしたときと同じ反応だとすぐに気づいた。


 彼が天鳥船の外に飛ばされているとしたら、作戦に支障をきたす。面倒なことになったと思いながら無線で呼んだ。


「秋本! 無事か?」


 すぐに応答があった。


『無事です。通路の東、3時方向』


 振り返ると向かってくる秋本曹長の姿があった。途中には4名の隊員がいたわけだが、彼の身体は誰にも接触していなかった。


どういうことだ?……改めて疑問に思う。とはいえ、駆け戻る秋本曹長が元気そうで安堵した。


 レーザーを照射したドアを観察する。その向こう側に行かなければ任務は達成されない。


 床から90センチほどの高さのところにボールペンの芯ほどの小さな穴が開いていた。貫通しているようだが、向こう側が暗く目視できない。ファイバースコープを入れるには穴が小さすぎた。


「それほど強度はないようだ」


 隅田2尉が言って、人差し指の関節でドアをたたいた。――タンタン……、薄い金属板の音がした。


「この程度では飛ばされないか。一気に、壊しちまおう」


 彼は調子に乗って自動小銃のストック(銃床)でそれを打った。


 ――ドン――


 音がした刹那、彼も秋本曹長が飛ばされた場所まで飛んだ。


『やられた。……やっぱり爆破しますか? 隊長なら簡単でしょう』


 照れ隠しなのか、おどけたように言いながら戻ってくる。


「任務中だ。馬鹿は止めろ」


 近くに来た隅田2尉に注意した。


 確かに爆破そのものは簡単だ。が、閉鎖空間では様々なリスクがある。ましてここは、古代人か宇宙人の謎の遺物の中なのだ。何があるかわからない。


「ここはシンプルに行こう。自動小銃でドアを破壊する」


「レーザーでも弾き飛ばされたのです。射撃中に飛ばされたら……」


 目黒が提案すると、野々村3尉が疑問を呈した。最悪、飛ばされた場所で同士討ちになるというのだ。


「レーザーと異なり発射された弾丸は自立している。それに掛けよう」


 説明すると野々村3尉も同意した。


「構え!」


 3人がニーリング(膝立ち)、二人がスタンディングの姿勢で自動小銃を構えた。


「ハチの巣にするぞ。撃て!」


 ――ダダダダダ――


 5挺の自動小銃が火を噴いた。赤い炎の点滅が花火のようだ。薬きょうが床に散乱し、ドアに点々と穴が開いていく。目論見通り、弾き飛ばされることはなかった。


 ――ダダダダダ――


 床の薬きょうが増えていく。しまいにドアの断片が砕け落ちた。


「打ち方止め!」


 声と共に静寂が戻る。


 正にハチの巣、ドアには無数の穴が開いていた。それを軽く蹴ると、人が通るには十分な大きさの穴ができた。


「ヨシ、前進する」


 目黒が先頭になって穴をくぐった。


 そこは最初に入った部屋とほぼ同一のサイズだった。プライベートスペースでないことは、中央のテーブルにコンソールパネルがあることと、正面と左右の3方向にドアがあるので明らかだ。


 本部に状況を報告すると指示があった。


『目黒1尉、コンソールパネルのアップ映像をくれ』


「了解、立川!」


 立川1曹にコンソールパネルを映すように指示し、自分もそれにヘッドライトの明かりを当てた。改めてそれを観察する。それはパソコンのキーボードにも似ていたがキーの数は少なく、そこに記されている文字は見たことのないものだった。それに銃弾が当たっていなくてよかった、と思った。


「見たこともない文字だ。……文字というより記号だな。これなど交番の地図記号だ」


 隅田2尉がそのキーを指差すと、突然、彼の目の前に光のスクリーンが現れた。室内がほんのり明るくなった。


「隅田、むやみに触れるな」


「触れていませんよ。こいつが勝手に……」


 彼が手をひっこめると、宙に浮いていたスクリーンが幻のように消える。闇が戻った。


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